第3話
「……何て言った?」
「だから、そのマスクはヒーローになるために必要な道具だと言うことだ」
「何だよ、ヒーローって……」
「想像の通り、この世界を救うために戦う英雄」
「そういうことを聞いてるんじゃねぇんだよ!」
「では、何を?」
「ヒーローって、何と戦ってるんだよ?!」
「……アクだ」
「……悪?」
ルカが静かに頷く。
「この世には、多種多様なアクが存在する。妖怪、怪人、宇宙人、未確認生物、秘密結社。それぞれ手段や目的は違っても、人間に危害を加えている事実もきちんとある。そういった者から人類の平和を守るためにとある財閥が秘密裏に結成させたチームが私たちのことだ」
「分かる必要はない。ただ戦えばいいのだ、少年・剣」
「少年って、同い年くらいじゃねえか」
「それとこれとは別の話だ」
「まぁ、いいや。百歩譲ってその悪ってのがいるんだとして、このマスクはそいつらを倒すために作られたってことか?」
「いいや。そのマスクは作られたものではない」
「はぁ?!」
「その財閥の会長が偶然見つけたものであるが、どうやらこのマスクは世界各地に散らばっているらしく、それを回収・研究するチームがまず発足され――――――――」
ルカが長々と説明を始める。だが、そもそもスタートラインに立たされていない剣にとってその説明は理解どころか、その意欲すら奪っていく。
話の途中で説明などそっちのけで、自分が置かれている現状とマスクについて、絡まる思考回路で自問自答を繰り返している。
「――――――というわけで、つまりはこのマスクは一度以上能力を発動させたものしか見ることも触ることもできない」
「はぁ?!」
一番難解な文章で説明は締めくくられた。
「能力って?!」
「例えば、手から炎を生み出したり、口から電撃を出したりすることができるような不思議な力だ。経験があるのだろう?」
「いや、ねぇよ! あるわけねえだろ! 生まれてから一度も使った記憶何てないんだよ!」
「では、物心がつく前にある可能性が高いな」
「そんな面白いことがあったら、親とかが言ったりするだろ。小さい時はこんなことしてた、みたいによ」
「ふむ…………まぁ、それは置いといて、私たちの仲間にならないか?」
ヒーローへの誘い。特撮好きの者なら迷わず承諾しそうな内容だ。生憎、剣は一度も作り話のヒーローに憧れたことなどない。
「嫌だね」
間髪入れずに、この言葉を返した。