第18話
偽物が黒い血を流しながら抵抗したかと思えば、次には動かなくなり、黒い炎のような禍々しいものへと変化した。
「ドッペルゲンガーって……あの?」
「あぁ。いわゆる、もう一人の自分というものだ」
「お前らの言うアクっていうのは、こういうことだったのか?」
「そうであるし、そうではない。前も説明したが、私たちは人類の敵と戦うだけだ」
「前までは自我を持った機械と戦ったの」
「……は?」
「つい最近では銀行強盗を捕まえた」
「まぁ、そんなことはもういいや。とにかく、このドッペルゲンガーは何体もいたりするのか?」
「確認されているうえでは、少なくとも単体ではないことが分かっている。だが、一体が複数の人間に化けることも分かっている」
「……なるほど」
何かを納得した剣をよそに、オーラへと姿を変えたドッペルガンガーをルカは懐から取り出したビンに入れる。
「そのビンに入れて何をする気だ?」
「調べるのだ。コイツそのものに意思があるのかだとか、生態はどうなっているかといった風に色々と。もしかしたら、コイツらの中にはいいやつもいるかもしれないから、利用する時のためのデータを収集する」
「殺しはしないんだ」
「そういうわけではない。悪性だと判断すれば容赦なく削除することはある。といっても、サンプルだけは大切に保管してある。仮説を立てるためには、代表的なデータさえあればいいからな」
専門分野の入門に入ってしまい、もうすでに置いていかれてしまった剣。理解できたことは、悪いものは徹底的に排除する、そうじゃないものは味方につけるといった具合だ。
「行こうか、空色」
「うむ」
先ほどの戦いに対して疲れどころか、息切れの様子を見せないところがつくづく小学生だなと思わせる空色を連れて帰ろうとするルカ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
それを思い出したかのように慌てて引き止める。彼の中では一つ確信してもいいほどの仮説が立っていた。
「どうした?」
「と、とりあえず、さっきは悪かった。怒鳴ったりして」
妙なところで真面目な剣である。ルカは謝られる筋はない返事をするが、それでも自分の非を悔やみきれずに何度も謝罪する。
「それで、すごく申し訳ないんだが、頼みたいことがあるんだ」
仲間になる気はないと散々言っておきながら嘆願するのも情けない、という旨の言葉を付け加えその内容を話す。先に首を縦に振ったのは空色だった。ルカも嫌な素振りを見せずに承諾してくれた。
翌日、それは実行されることとなった。
剣はある人物が一人になるタイミングを見計らっていた。中々その時は訪れなかったが、放課後に絶好の機会がやってくる。仁にも何度か使った一生のお願いで協力を仰ぎ、その人物と接触した。
「なぁ、小暮。ちょっといいか?」
小暮の偽物捕獲作戦の開始だ。