第16話
いつから気を失っていたのであろう。そして、誰が運んでくれたのだろうか。学校近くの公園で空色に襲われたことは覚えている。なのにも関わらず、今は自宅のベットの上だ。母親に聞いたところ、知らないと言われる。剣の家は共働きなのだが、母曰く、自分が帰って来た時には玄関に靴があったので、帰って来たのだという。
この際、誰が運んでくれたかなんて大して問題ではない。一番は空色の裏切りだ。しつこく勧誘してくるのはまだ我慢できた。それだけで済むはずなのに。いきなり攻撃を仕掛けてきたのはもう脅しである。何度断っても懲りずに誘ってくることには慣れてきたからこそ、実力行使には出ないだろうと判断していた自分が甘かった。
人生で味わったことのない。このやるせない思いをどうにかしてしまいたいと迷ったあげく、いつものように、寝て解消してしまうことにする。今日一日で結構睡眠をとってしまったので最初はなかなか寝付けなかったが、起きていてもイライラするだけだと、脳みそは気が利いていた。
解決していない課題がある。小暮の事件だ。少なくとも、これだけは自分の力で何とかしなくてはと終始、思考をめぐらせてみたものの、やはり本人を捕まえること以外に手っ取り早い方法がない。といっても、学校で聞いても効果がない。恐らく、一度味をしめると同じ所で同じ行動をする可能性があると踏み、放課後にまたあの本屋に向かうことにした。我ながらその行動動機を見いだせないが、今はどうでもいい。
校舎を出ると、校門にこの学校の生徒ではない二人の人影を捕捉した。
ルカと空色
顔を見ただけで怒髪が天を突いてしまいそうだ。無視してしまおうと通り過ぎようとすると、分かってはいたがこちらに駆け寄って来る。
「よくも、のこのこと顔を出せたもんだな」
人生初の威嚇だ。怖いか否かと言えば後者だが、態度で怒り心頭なのは誰の目にも明らかだ。
「何のことだ?」
ルカが本当に知らないように答えたので、血管が切れてしまうのかというほど頭に血が上る。
「昨日、コイツは俺の鳩尾を殴って来たんたぞ!?」
「何の話なのだ?」
「はぁっ?!! 殴ってからボコボコにしようとしたくせにっ!」
「いつのことだ?」
「だから、昨日だよ! 昨日の1時半くらいに――」
「その時、空色は学校だが?」
言われてから気づく。空色が初めてやってきたのは昼休みであったが、その日は彼女の学校は休みだ。そのあとは、いつも放課後にやってくる。わざわざ、昨日の昼にやってくる必要はあるのだろうか。しかも、剣が倒れたことは知らないはずなのに。
今までそんな疑問を抱かなかった。だから見落としていた。自分に起きた出来事と価値観でしか理解できなかった。
「じゃあ、あれは――」
改めて昨日のことを振り返ろうとすると、どこからか悲鳴が聞こえてくる。
「いくぞ、空色」
「うむ」
すぐさま二人は声がした方へ走っていく。納得のできない剣は彼女らについていく。
「ひったくりよ。捕まえて」
女子高生がひったくりに遭っていた。二人とも残像を踏み出すくらいの速さでひったくり犯を挟み撃ちしていた。
「そのバックを返してもらおう」
「正体も現すのだ!」
剣が駆け付けた時には目を疑った。犯人は随分と小柄なのだと思ったが、
「……久遠寺?」
空色が二人いたのだ。