第12話
目の前で起きたことを受け入れられなかった。クラスメイトが万引きをしていた。犯人が自分に告白をしてきた女子だということを差し引いても、その衝撃は剣の食欲を損なわせるには充分だ。
学校でもどう対応したらいいのか分からない。幸か不幸か、このことは少なくとも学校側には知られていないらしい。小暮は普通に登校してきているのだから。
しかし、いきなり話しかけて「昨日、万引きしてたよね?」なんて言うのはあまりにも無礼すぎる。一番信じたいのは見間違いであること。そうすれば全て丸く収まる。制服から自分の学校の生徒がしたことなのは変えられないが、それでも自分の知り合いでなければいいと言い聞かせている。
あんなに楽しそうに話をしている小暮を見ると、この子が悪いことをするわけはないと、根拠のない断言を繰り返す。言い訳にも聞こえてしまうが、誰に話すわけでもないのだから、都合のいい解釈でもなんら問題はないのだ。
昼食を仁ととる。二人とも母親が毎日作ってくれる弁当を食べることになっている。いつものように、剣の席を二人で挟んで食べる。大きさは似たようなもので同時に食べ始め、食べ終わるタイミングもほぼ一緒だ。正確に言えば、剣の方が二口分くらい早い。
しかし、今日は仁が食べ終えても尚、剣は半分も手をつけていなかった。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
それなりの心配をかけてみる。例え風邪を引いたとしても、そんなの二,三日くらいですぐ直る。重い病気にかかるわけもないと思っているので心配の程度も中の下くらいだ。
「…………もしもさ」
唇はほとんど動かなかった。腹話術の練習かと勘違いするほどだ。
「なに?」
「……俺が万引きしてるの見かけたら、どうする?」
「……なにそれ?」
自分でもこんな質問をする予定など一切ないのだが、それでも他人の意見を聞かないと収まらないのだ。仁を一般人代表と見立てて、その言葉を聞くことにより、自分のするべきことが見えてくるのではないかと思ってしかたない。
「…………いいから」
「……まぁ、そうだな。俺なら、本当にお前がしたのか証拠を探すけどな」
剣は徐に立ち上がり、荷物をまとめる。
「おい、どうしたんだよっ!」
「ごめん。具合悪くなってきた。早退する」
カバンを肩に下げて教室を出ていく。唐突すぎることなので、仁は何もできなかった。
「……何か俺、まずいことでも言った?」
全く関係のない心配を植え付けたまま、剣はある場所に向かっていく。