第10話
荷物を持ったまま案内されたのは空色の実家だった。
絵に描いたような豪邸を目の前に久遠寺家のすごさとその敷居を跨いで良いのかどうか迷ってしまう。
「入っていいぞ」
鍵のかかった門を開けた空色。高さは充分あるというのに思わず身を縮めて通る。
「しかし、やっぱすごいんだな」
「すごくなどない」
金持ち故の感覚のズレかと一瞬腹に来たが、すぐにそれは収まる。
「ここに生まれたいと望んだわけではない」
返す言葉を見つけることはできなかった。仕方がないので辺りを見回すことにしたが、あることに気づく。
「おい。屋敷はあっちだろ?」
門をくぐる前に見えた家の位置と現在地がおかしい。どう考えてもそこの横道を通っている。
「目的地は屋敷ではないからの」
「は? じゃあ」
「いいから黙ってついてこい」
確認するが、空色は剣より年下だ。その上女子だ。そんなものから上から目線で会話をされ続けたせいなのか感覚が麻痺してしまい、剣は今程度の態度には何も感じなくなっている。
やがて辿りついてのは、物置のような小屋だった。その扉を開ける。
「入っていいぞ」
目的が未だに不明ではあるが、拒む理由が特にないので指示に従う。
小屋に入るとそこは一つの空間だった。上から見ると八角形しているのが分かるのだが、その四辺の壁にはモニターが埋め込まれており残りはドアがある。部屋の中央には部屋と同じ形のテーブルらしきものが下から生えているかのように立っていた。
「なんだ、ここは?」
呆気にとられつい口を塞ぐことを忘れてしまう。言わば超ハイテクな僕らの秘密基地といった感じのクオリティを見せつけられているから。
「ようこそ。私たちの本拠地へ」
出迎えてくれたのは言わずもがな、ルカであった。