第9話
いつも通りに学校を終えて、帰宅しようとしていた時のことである。
校門の近くで何人かの生徒がたむろしていた。犬か猫でも迷い込んだのかと思い素通りしようとしたのだが、
「待っていたぞ」
この言葉が剣の耳に刺さり、さらに言えば古傷を抉ることになってしまう。
「お、お前……」
そこには、偉そうな態度の女子小学生、久遠寺空色が待っていたのだ。空色が話しかけた途端に、彼女を囲っていた生徒は空色を褒める言葉から剣を貶すそれにガラリと変化した。
顔にこそ出さないが、傷口を開かせられることを想像すると、そのダメージは眼から大量出血したかのように涙が溢れても仕方がない。
「お主、此方に付き合え」
二度目の連行なので最早抵抗しても無駄だと瞬時に悟り言われるがまま空色についていくことにした。その時に思ったことは、またなのかよ、という呆れ以上に、こいつ話し方が微妙に変わってる、ということだった。
連れていかれたのは普通のスーパーだ。買い物の荷物持ちをさせられている剣。
「人連れ出しておいて、ただの買い物かよ」
「此方一人では持ちきれぬのだ。家の者は別に仕事があるからの」
今の会話で空色の家がお金持ちだということが予測できた。まぁ、イチイチ本人に確認することではないことであるが、これらがなくとも剣には何となく察しがついていた。
久遠寺という珍しい苗字で真っ先に思い浮かぶのは、世界でシェアナンバー1の自動車メーカーKUONJI。
まさか空色がそんな会社の恐らく会長とかの娘だとは中々に想像できなかった。
「お嬢様も大変なんだな」
「大変だと思ったことはない。自ら率先してやっていることだからの」
「…………ヒーローもか?」
今まで絶えず働いていた足がピタリと止まる。何を考えていたのかは分からないが、ゆっくり頷いたことは確認できた。
「よくできるよな。悪だとかと戦うってさ」
少しばかり嫌味たらしく言ったせいなのか。その言葉に対する返答がしばらくなかった。自分が悪者だと一方的に思われるのも癪なので、空色が持っていた小さな荷物も自分のキャパシティを考えずに奪う様にして持つことにした。