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迷走探偵秋谷静  作者: 青波零也
鏡花水月の君
3/12

幕間 記憶

 目の前を真っ白く染める光、甲高い音。

 

 そう、わたし、ここにいなきゃいけないの。

 どうして?

 

 守らなきゃ。

 守らなきゃ、いけないの。

 

 ……何、を?

 

「コズエちゃーん、おはよー」

 大学に向かう道で不意に声をかけられて、長谷川梢ははっと我に返る。いつの間にか目の前に立っていた友人が、ひらひらと目の前で手を振っている。

「コズエちゃんってばまたぼーっとしてるー。だいじょぶー?」

「あ、ご、ごめんなさい」

 目をぱちぱちさせて慌てて謝ると、友人はそんな梢の所作が面白かったのか、「あはは」と楽しそうに笑う。そう、笑わせるつもりはないのに、どうもこのずれたテンポが人からすれば面白く映るらしい。どうも納得がいかなくて、ついつい首を傾げてしまう。

「コズエちゃんは二限から講義だっけ?」

 はい、と頷くと、「それじゃ、あたしは三限からだから」と言って自転車に跨った友人は、そのまま大学とは逆の方向に走り去っていった。

 その背中を見送って、梢はその場に立ち尽くす。

 そういえば、昔はこんなにぼんやりしていることなどなかった気がする。折り曲げた右の人差し指を唇につけて、考える。大学に入ってから? それとももう少し前から? 突然、ふわふわと足元がおぼつかないような感覚に陥ることがある。それこそ、今この瞬間のように。

 何か、大切なことを忘れているような気がする。

 ただ、思い出そうとすればするほど、何もかもがふわふわとした掴みどころのないものになって、頭の奥底に逃げ込んでしまうようでもあって。

 思い出してはいけない、そんな気もして。

 軽く頭を振って、堂々巡りに入りかけた思考を追い出す。道端に直立不動で何か考えているなんて、おかしい人のように思われてしまうではないか。そんなことを考えながら、どこか現実感のない一歩を踏み出した、その時。

 背中に、何かを、感じた。

 まただ。梢は身を硬くしながら、足を速める。近頃、誰かがこちらを見ているような気がする。視界の端にちらちらと見える黒い影がつかず離れず纏わりついている、そんな嫌な感覚に囚われたまま、日々を過ごしている。

 背筋が泡立つのを感じながら、そっと鞄に触れる。いや、正確にはその中にある『お守り』に。どうか、どうか。言葉にならない思いをぐるぐると巡らせながら、駆け出そうとしたその時。

 とん、と。

 肩に、力がかかり、

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