表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現  作者: 猫芽ヒカル
8/34

川上菜穂美③

「マスターさんからメッセージ入ってたよ。今日用事ができたから行けなくなった。皆さん楽しんでおいで、だって」


聡がスマートフォンを見ながら言う。


「大正解ね」


菜穂美が言うと、貴史は照れたような表情を見せた。


 駅前から移動した四人は、街の中心からは少し外れたカフェへと来ていた。

 店内はログハウスのようなお洒落な木目調になっており、木の匂いとコーヒーの匂いが良い感じに混ざり合っている。

昼飯時から少し外れた時間になっていたため、客はまばらで、騒がしさも少ない落ち着いた雰囲気だった。


「ところでさ」


 ブレンドコーヒーを一口飲んで、聡が口を開いた。


「俺と貴史は本名がばれちゃったから、それで呼んでもらうとして、ナミさんとパパさんはそのままでいいのかな?」


見る限り、貴史も聡も悪い人間ではなさそうだ。

本名を明かしてしまっても問題ないだろう。


「私は川上菜穂美。好きに呼んでくれたらいいよ」


またしても少し強めの口調でそう言ってしまった。

どうにも、上から口調が抜けない。

自分の中で変なキャラクターが定着してしまいそうだった。


それでも男性陣二人は、あまり気にしていない様子で頷いた。


「分かった、じゃあ菜穂美って呼ばせてもらうよ」


聡が返事をすると、三人の視線はもう一人の女の子に注がれた。


「……中川友香、です」


もう一人の女の子が消え入りそうな声で答える。


「なかがわ、ゆうか?」


聡が聞き直すと、友香はゆっくり頷いた。


「じゃあ友香って呼ばせてもらうね」


聡の口調はなぜか友香を慰めるようだった。


 それにしても、あのPapaPopoがオフ会にやって来たのは意外だった。

そしてこんな若くて大人しい子だということにも。

恐らく貴史と聡も面喰らっていることだろう。

友香は常に俯き加減で、自分の注文したミルクティーを見つめていた。


「それで、早速今日の本題なんだけど、人数当たってたよね?」


 貴史がおずおずと切り出した。

そうだった。今日は貴史の予知夢についてのオフ会だった。


「予知夢を見れるようになったのは間違いなさそうね」

「うん、人数も男女比もピタリと当たってたからな」

「それでさ、これからどうしたらいいと思う?」


貴史は、もの凄くザックリとした質問をした。


「どうしたら、とは?」


皆を代表して聡が聞き返す。


「うーん、この力を有効に使える方法はないかなって」


一同は沈黙した。予知夢を上手く使う方法か……。


「ちょっと聞いていい?」


何故か高圧的なキャラクターだと普通に話せるようになってきていた。


「何?」

「今まで見た夢と、現実に起こったことをもう少し詳しく聞かせてもらえない?」


貴史は黙り込み、俯いた。

何か自分の中で葛藤しているようだった。

余計な事を聞いてしまったかな、と焦ったが、貴史は皆の方に向き直り、何かを決心したかのように口を開いた。


「分かった。今までみんなには嘘をついてたこともあったけど、今日は全部本当のことを話すよ。最初に……。僕、実は社会人じゃなくてニートなんだ。働いてないダメ人間だ」


 菜穂美には以前から何となく分かっていたことだった。

働いている聡やMASTER_Qと違い、貴史にはどこか緊張感に欠ける部分が見え隠れしていた。

 

一番驚いていたのは聡のようだった。


「え、そうだったのか……」


ショックを受けたように呟いている。

友香は俯いたまま、何のリアクションもない。


 その後貴史の口から、二日前の夢と聡と出会った時のこと、昨日の夢と母親との電話でのやり取りが語られた。

チャットでは大雑把にしか聞いていなかったが、詳しく聞くと細かい部分まで夢と現実が合致しているようだった。


「それで、今朝の夢は?」

「ここで四人集まって話をしている夢だった。カフェの内装も席も全く一緒だったよ。ここに来てから思い出したんだけどな。」

「出来事が起こってからじゃないと思い出せないの? それじゃあんまり意味なくない?」


せっかく夢で見ていても、それまで思い出せないなら予知夢の意味がなくなってしまう。


「いや、そうでもないんじゃないかな?」


菜穂美の言葉に聡が口を挟む。


「だって、メモに書いてたことは正しかったわけだろ? 詳しく夢の内容を書いておけば全部覚えていられるんじゃないか?」


なるほど、起きてすぐなら夢は覚えているのか。

ただ、貴史が夢日記をつけるようなマメなタイプだとは思えなかった。


「貴史、自分で夢に見たこと書き留められる?」

「うーん、そういうの苦手なんだよな……」


やはり難しそうだ。


「あの、ちょっといいですか……?」


今まで沈黙を続けてきた友香が突然口を開いた。3人の視線が一斉に友香に集中する。


「貴史さんの夢を聞き取りするというのは……?」


友香は視線から逃げるように、身を縮まらせて話す。

最後の方は声が小さすぎてほとんど聞き取れなかった。


「えっ? どうやって?」


「起きた直後の貴史さんに電話するんです。それで貴史さんから聞いた話を皆さんにお伝えする。という流れで……」


それならば貴史が忘れていても他の第三者が覚えておけそうだ。

少なくとも貴史一人だけが知っているよりも、忘れる確率は低くなりそうな気がする。


「僕起きるの十時頃だぜ?」


ニート宣言をして開き直ったのだろうか。貴史は事もなげに言う。


「分かった、じゃあ私が電話してあげる。その代わり、講義がある日もあるから朝九時半までには連絡する。いい?」


菜穂美は自分の言葉に内心驚いていた。

男に電話するのか、私が? 毎日?


「じゃあ決まりだな。早起きしろよ、貴史」


聡はからかうような笑みで、貴史に向かって言った。


「起きられるかな……」


貴史は心配そうにしている。


「大丈夫じゃないでしょうか。まだ完全に起ききる前の方が覚えてるかも……」


友香の言葉に貴史以外が頷く。


「予知夢を有効利用するのは、それが上手くいってから考えましょ」

「うーん、そうだな。頑張ってみるよ」


貴史は渋々頷いた。


こうして貴史の夢保管計画はスタートを切ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ