谷口貴史⑤
0時を過ぎた頃、貴史はWINKにログインした。
既にコミュニティ内ではチャットが始まっている。
この時間が最も人が集まりやすく、盛り上がる時間だった。
TAKA_302:こんばんは~。
SATO_00:あ、タカさんだ
NAMI_1212:タカさん、ヤッホー
PapaPopo:タカ入ってくるな! 臭い!
MASTER_Q:やあ、タカさんいらっしゃい。
今日はコミュニティ内の全員が顔を揃えていた。
各人がそれぞれの返事を返してくれる。
SATO_00:タカさん聞きましたよ、正夢見たんですか?
TAKA_302:うん、昨日からね。
NAMI_1212:昨日からってことは今日も?
PapaPopo:サトー黙れ! 知ったかサトー!
TAKA_302:うん、今日も見た。
MASTER_Q:ほう、それは興味深いね。
既にコミュニティ内では貴史の正夢のことは知れ渡っているようだった。
NAMI_1212が話していたのであろう。
NAMI_1212:それで今日はどんな夢だったの?
PapaPopo:ナミはしゃぎすぎ! 死ね!
TAK_302:母親から電話がかかってくる夢。内容も同じだったよ。
SATO_00:それはすごいですね。
MASTER_Q:予知夢みたいなものですな。
NAMI_1212:これはいよいよ面白そうね!
昨日いなかったSATO_00もMASTER_Qもこの話題には興味があるようだ。
SATO_00は自称二十五歳の社会人。書き込みからは真面目な男性という印象を受ける。
一方MASTER_Qはこのコミュニティを立てた人物なのだが、うまくはぐらかされて素性はよく分かっていない。みんなのまとめ役として一歩引いた位置から大人っぽい発言をすることが多い。
SATO_00:今夜もまた予知夢見るんでしょうかね?
TAKA_302:さあ、どうだろ?
NAMI_1212:ちょっと考えたんだけどさ……
PapaPopo:一生寝てろ! そのまま逝ってしまえ!
NAMI_1212:タカさんの予知夢が本物かどうか試してみない?
MASTER_Q:試してみるとは?
SATO_00:何をするんです?
NAMI_1212:明日みんなでオフ会しない?
NAMI_1212からの提案は予想外だった。
オフ会とはネットで知り合った者同士が実際に会うことである。
そんなことをしたら、自分の醜態がバレバレになってしまうじゃないか。
貴史は一人うろたえた。
TAKA_302:ちょっと待って。予知夢とオフ会って関係ないじゃん。
SATO_00:そうですよね。
PapaPopo:ナミが壊れたー!ふざけんな!
NAMI_1212:明日オフ会することになったら、今夜タカさんはそのことを 夢で見るはずよね?
SATO_00:なるほど。今まで通りなら今夜は明日の夢を見るってことですか。
TAKA_302:そんなことわからないよ。
NAMI_1212:だから、それも含めて試してみるのよ!
NAMI_1212:ここにいる人はそれぞれ会ったことがない人間よね?
NAMI_1212:明日、男が何人、女が何人集まるか、予知夢で見た結果をオフ会で発表するの。
PApaPopo:ナミうるさい! ウザイ!
MASTER_Q:なかなかおもしろそうな実験だね。
SATO_00:確かに、当たってたら本物ですね。
何か嫌な雲行きになってきていた。貴史はますます焦っていた。
TAKA_302:ちょっと待ってよ! みんなオフ会は大丈夫なのか?
SATO_00:ええ、私は別に構いませんが
MASTER_Q:楽しそうですな。
NAMI_1212:じゃあ決まりね。タカさんOK?
PapaPopo:無理無理! タカ恥ずかちぃ!
TAKA_302:わかったよ……。やればいいんだろ。その代わりパパも来いよ!
SATO_00:ははは、パパさんってどんな人なんでしょうねえ
貴史は渋々了承した。
こうなったらもうヤケだ。
待ち合わせの確認をしてログアウトした貴史は、缶ビールを煽って床についた。