園田雄一郎④
「ご主人様、お食事の時間でございます」
野田の声に目を覚ました。
何だか色々な夢を見ていたようだ。意識がまだはっきりしない。
野田の助けを借りて、上半身を起こす。
「水を、くれないか?」
「畏まりました」
事前に準備してあったのだろう。
野田からすぐにグラスが手渡された。
水を一気に喉に流し込むと、ようやく意識が戻ってきた。
野田に車椅子を引かれて、無駄に広い家の中を進む。
しばらくして大きなテーブルのあるダイニングへやって来た。
車椅子のままテーブルに着く。
大きなテーブルだが、座っているのは自分一人だけだった。
長男はまだ仕事中なのだろう。
執事たちが慌ただしく食事のセッティングをしている。
テーブルの上に大量の食事が並べられた。
雄一郎はその料理をしばらく見つめていたが、やがて緩慢な動作でご飯に手をつけた。
一日中寝ているせいか、全く食欲はなかった。
ご飯と魚の煮付けを一口食べただけで、息苦しさが襲ってくる。
雄一郎は手を振り、食事を下げさせた。
「PCはあるか?」
雄一郎が声をかけるとすぐに、野田がノートPCを持ってきた。
電源を入れ、WINKにログインすると、友香からメッセージが届いていた。
PapaPopoからのメッセージ
みんな警察に捕まっちゃったの。どうしよう……。
(どういうことだ?)
無表情だった雄一郎に、血の気が戻った。
ドリーマーズの評判が下がってきているのは聞いていたが、何も悪いことはしていないはずだ。
雄一郎はチャットを開いた。
MASTER_Q:パパさん、いるかい?
PapaPopo:はい。マスターさん、どうしたらいいの?
MASTER_Q:落ち着いて。何でみんな捕まったんだい?
PapaPopo:分からない。私が事務所に行ったら警察がPCとか書類とか押収してて……
PapaPopo:3人も一緒に連れて行かれちゃったんです。
雄一郎は後ろで控えている野田に尋ねた。
「なぜ、警察がドリーマーズを捜査しているかわかるか?」
「はい、恐らく詐欺の容疑で強制捜査に入られたのだと……」
ドリーマーズの業績に危機感を抱いたどこかの同業者が言いがかりをつけて、警察に通報したようだ。
「そうか……」
雄一郎は唸った。
MASTER_Q:大丈夫だよ。みんな悪いことなんてしてないからね。
PapaPopo:すぐに戻って来られますか?
MASTER_Q:大丈夫だ。
とは言ったものの、予知夢が真実であるなんてことを警察が信じるとは思えない。
無罪になるとしても長い時間拘留される可能性は十分にあった。
(さて、どうしたものか……)
PapaPopo:私には何かできることあるでしょうか?
友香からは明らかな焦りの色が見える。
まずは友香を安心させてやることが先決だ。
MASTER_Q:こういう時はご意見番の出番だよ。
MASTER_Q:パパさんはみんなの帰りを待っていてあげて。
PapaPopo:……わかりました。よろしくお願いします。
友香は頭の良い子だ。
最初に公園で会ったのが、MASTER_Qであるということが分かっているのかもしれない。
チャットを切ると、すぐさま野田に指示を出した。
「畏まりました」
野田はそう言うと、きびきびとした動作で席を離れていった。
「ご意見番、最初で最後の大仕事だな……」
雄一郎は一人呟いた。
1時間後、野田が戻ってきた。
「警察と話はつきました。明日にも釈放されるとのことです。また、警察に通報した人間を調べましたところ、やはり裏には霊感商法を行う悪徳業者がいるようです」
「そうか……」
野田からの報告を聞き、雄一郎はふうと息を吐いた。
雄一郎は政財界に顔が広い。警察に捜査を辞めさせることは造作もないことであった。
これでひとまず三人が犯罪者になることは避けられた。
「その悪徳業者は潰しとけ」
「畏まりました」
「しかし……、せっかく作った会社はダメになってしまったな」
「ええ、ドリーマーズの立て直しはもはや無理でしょう」
「上手くいくということを、彼らにも見せたかったのだが……」
自分で言ったセリフに雄一郎はハッとなった。
(そうか……、そういうことだったのか……)
雄一郎が彼らをWINKに招待した理由がやっと分かった。
守ろうとしていたにも関わらず、顧みなかった家族への、そして会社の為に踏みつぶした弱者への罪滅ぼしだったのだ。
知らず知らずのうちに他者を蹴落とし、見下してきた。
他人はもちろんのこと、守ろうとしていたはずの従業員、そして家族さえも・・・。
いつしか自分の事しか見えなくなっていた。
全ては自分の為でしかなかったのだ。
何のことはない、自分だって彼らと同じように問題を抱えていた。
雄一郎は気付かぬうちに涙を流していた。
それは罪滅ぼしの涙か、感謝の涙か……、理由は誰にも分らなかった。
「あの子達のことよろしく頼む」
「畏まりました」
野田が雄一郎にそっとハンカチを差し出す。
「色々と世話になったな」
「もったいないお言葉です」
野田は深々と頭を下げた。
翌朝、肺がんを患っていた雄一郎は容態が急変し、この世を去った。
家族に見守られることはなかったが、その姿はとても穏やかであったという。
MASTER_Qの死は結局、ドリーマーズのメンバーに知らされることはなかった。




