中川友香⑥
友香が顔を出していない間に、ドリーマーズのサイトにある「今日の予知夢」コーナーがネットで話題になり始めていた。
――今のところ百発百中だろ。どうなってんだ?
――誰か大物が裏で動いているらしいぞ
――どうせインチキだろ? すぐボロが出るよ
三学期の終業式を終え、春休みとなった友香は、朝から事務所へと入り浸り、ドリーマーズについて書かれた掲示板で噂を確認していた。
聡の思惑通り、結構な話題になっている。中にはあり得ないような噂まで流されており、友香は吹き出してしまう。
朝から電話での問い合わせも来ていて、聡と貴史がやりづらそうに電話対応している。
「話題になるのはいいけど、なんか変な組織と思われてるみたいだね」
電話を終えた貴史が、うんざりしたような口調で言う。
「まあ変な組織なのは事実でしょ」
貴史の言葉に菜穂美が反応して言った。
「そうなんだけどさ。あれは本当なんですか?って問い合わせばっかりで仕事の依頼が全然来ないってのはな……」
「まだみんな半信半疑なんですよ。もうすぐしたらきっと仕事もいっぱい来ますよ」
貴史の方に振り返って、ねぎらうように言葉をかけた。
「そうだね、しばらくの辛抱か」
「とりあえず、依頼が来た分はちゃんとこなさないとね。明日本番でしょ?」
初依頼の貴史レンタルは明日に迫っていた。
「スーツはしっかり準備してあるよ」
「そっちのことじゃないと思うんですけど……。予知夢の方は大丈夫なんですか?」
「まぁ、見ること自体は大丈夫だと思うんだけど、問題はどこまで面接の内容を覚えているかってことかな」
「菜穂美さんの聞き取りも大事になってきますね」
「うん、もう聞き取り用のペーパーは作ってあるんだけど……」
菜穂美は若干不安げな表情を見せた。
今まで身内で何度も実験しているが、外の人間で試すのは今回が初めてだ。
何が起こるかは分からない。
「大丈夫だろ。貴史の予知夢も、菜穂美の聞き取りも、俺は信頼してる」
いつの間にか電話を終えた聡が言った。
こういう時、聡はメンバーに元気づける言葉をさらりと言ってのける。
聡を社長にしたのは、正しかったのだと実感する。
そんな話をしていると、新たな電話がかかってきた。
聡は肩を竦ませると、受話器を取った。
「お電話ありがとうございます、ドリーマーズの向井と申します」
「私も電話出ましょうか? 貴史さん明日の準備とかあるでしょうし」
忙しそうな様子を見かねて申し出た。
「え、いいの?」
「これくらいならできると思います」
やったことはなかったが、聡や貴史の様子を見ているとできそうな気がする。
「それじゃ、お願いしようかな。僕電話対応苦手だし」
「貴史は予知夢以外に得意なことないんじゃないの……」
菜穂美はため息混じりに言った。
「ははは、でも予知夢が一番大事ですから」
友香は笑った。
あの一件以来ここのメンバーとはずいぶん気楽に話ができるようになった。
ずっと強張っていた心が、ようやく力を抜くことができたのだ。
そうしているうちに早速次の電話がかかって来た。
貴史や菜穂美の視線に友香は頷き、受話器を取った。
「お電話ありがとうございます。ドリーマーズの中川と申します」
貴史と菜穂美は顔を見合わせた。
数分後、受話器を置くと、拍手が起こった。
「完璧じゃないか」
「ほんと、しっかりしてる」
貴史と菜穂美の言葉に、頬が熱くなった。
「そんなことないですよ。緊張しました」
(でも、悪くないな)
メンバーの役に立てることが、友香の中で喜びになっていた。
MASTER_Q:初仕事成功おめでとう!
SATO_00:ありがとうございます
TAKA_302:乾杯しようぜ。
NAMI_1212:さっき事務所でやったじゃない。
PapaPopo:マスターさんも入れてやりたいんですよね? タカさん。
TAKA_302:そういうこと! こういうのは何回やってもいいの。
MASTER_Q:では社長に音頭をお願いしようか。
SATO_00:わかりました
SATO_00:初仕事成功に乾杯!
NAMI_1212:かんぱーい!
TAKA_302:乾杯!
PapaPopo:かんぱーい!
MASTER_Q:乾杯。
初仕事は見事成功を収めた。
予知夢でクライエントの面接結果が良いことが分かり、貴史がそのまま同行。
予知夢の通りクライエントは手ごたえを感じて面接を終えることができたのだ。
NAMI_1212:貴史は面接どうだったの?
TAKA_302:分かってるくせに聞くなよ。ボロボロだよ……。
PapaPopo:いいじゃないですか、ドリーマーズがあるんですから。
MASTER_Q:そうだよ、タカさんの居場所はちゃんとあるからね。
SATO_00:こんな便利な能力持ってる男を落とすなんて、見る目がないですね!
MASTER_Q:ははは、全くだ。
その日のチャットは大いに盛り上がり、午前二時近くまで続いた。
四月に入ってから、ドリーマーズの噂はネットだけに留まらず、口コミでも広がり始めた。
当初電話だけだった問い合わせが、直接事務所に足を運ぶ人まで現れ始め、徐々に会社の信頼が大きくなっているのを感じさせた。
それに伴って、貴史レンタルの仕事は加速度的に増えていった。
「すごいね、もう五月の分まで予約埋まっちゃった」
「貴史、忙しいけど大丈夫か?」
「なんとかね、結構予知夢回避のパターンがあって助かってるよ」
友香と菜穂美の学校が始まり、事務所は人手不足になっていた。
特に友香がいない時間帯は、聡も貴史もほとんど電話対応や来客応対に追われているようで、聡ですら「何もできない」とぼやいていることがあった。
「ごめんなさい。これから受験勉強で、もっと来られなくなってしまうかも……」
高校では既に受験モードの空気になってきており、友香も危機感を募らせている。
「気にしなくていいよ。高校生は勉強が一番大事なんだから」
聡がそう答える。他のメンバーも同意を表すように頷いた。
「でも、ドリーマーズはどうするんですか?」
「できる範囲でやるだけさ。無理そうなら断るし、仕事も削るよ」
聡は笑顔で言った。
仕事の規模を大きくするよりも、このメンバーと続けていくことを優先するというのが聡のポリシーらしい。
「そうですか。ありがとうございます」
「その代わり、来れるときは看板娘、頼んだよ」
横から貴史が口を出した。
「はい、喜んで」
友香は微笑んだ。
ドリーマーズはその後も躍進を続けた。
サイトの「今日の予知夢」コーナーは五月に有料メルマガに移行したが、読者はすぐに十万人に迫る勢いとなり、貴史のレンタルは予約が半年待ちになった。
四人の会社にしては充分すぎるほどの利益が上がり、経営は順調そのものだった。




