中川友香⑤
SATO_00:今日からサイトに「今日の予知夢」コーナーを作りました。
MASTER_Q:私も見させてもらったよ。大分サイトも充実してきたね。
TAKA_302:サイトの更新は僕の役目なんだぜ。
PapaPopo:バカヤロー! それくらいでいい気になるな!
その夜、いつものようにWINKチャットが行われていた。
友香はいつものように荒らしを試みるのだが、あまり気は乗らないでいた。
NAMI_1212:パパさんどうかした?何か元気ないみたい
TAKA_302:そうか? いつも通りな気がするけど。
PapaPopo:関係ないだろ! ナミウザイ!
SATO_00:うーん、やっぱりあまり変わらない気がしますね
MASTER_Q:色々考えることが多いんじゃないかね。
何も知らない癖に好き勝手言って……。
友香は段々と心の底から怒りが湧いてくるのを感じていた。
何への怒りか、自分でもよく分からない。
それはずっと自分の殻の中に隠していた「素の自分」だった。
友香の中でくすぶっていたものが、モゾモゾと胸の内をのたうちまわる。
友香はその感覚に気がおかしくなりそうで、キーボードに突っ伏した。
PapaPopo:あああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああ
NAMI_1212:どうしたの?
TAKA_302:なんだ?
SATO_00:パパさん、しっかりしてください
PapaPopo:ごめんなさい、今日は寝ます。
そのままログアウトした。
布団に潜ってからも、否応なしに溢れてくる「素の自分」に友香は翻弄され続けた。
それから友香はドリーマーズにもWINKにも顔を出さなくなった。
ただ漠然と学校と家を往復する日々。
外見は今まで以上に機械的に淡々としていたが、内面では煮えたぎるような気分の奔流が友香を苦しめ続けていた。
学校では期末試験が始まっており、試験に集中している生徒ばかりで、友香の異変に気付くものはいなかった。
期末試験の最終日、友香はいつもと同じように試験を終え、教室を後にした。
「友香―!」
後ろから叫び声が聞こえてきた。
この声は直美だ。友香は機械的に後ろを振り返った。
直美は友香のすぐ傍まで近づくと、手を差し出した。
「これ!」
手には小さな包み紙が乗せられている。
「えっ、何?」
「友香、今日誕生日でしょ!」
そうだった。すっかり忘れていた。
呆然としていると直美が続けた。
「友香、なんか最近元気がないからさ、これで元気出して」
直美はずっと心配してくれていたのか……。
友香はゆっくりと手を伸ばし、プレゼントを受け取った。
「安物だけどね。」
へへへ、と直美は恥ずかしそうに笑う。
包み紙を開けると、そこにはキャラクターがプリントされた可愛らしいシャープペンが入っていた。
直美はずっと気にかけてくれてたんだ・・・。
不意に胸が圧迫されてくる感覚を覚えた。
「ありがとう……」
息が詰まってボソボソとした声になる。
「いいのよ!その代わり一緒に大学行ってもらうんだから」
直美の言葉に友香は頷いた。
「うん、私直美と一緒に大学いぐ……」
言葉の途中から鼻声になり、目には涙が溜まっていた。
「やった!ありがとう友香!」
(心配してくれてありがとう、直美)
言葉にならず、友香は心の中で感謝を告げた。
直美と別れた友香は、学校を出てドリーマーズの事務所へと向かった。
直美とのやり取りで今までが嘘のように頭がすっきりしていた。
いつものようにエレベーターで三階へと上がる。
そして、自動ドアが開いた瞬間、友香の足がピタリと止まった。
カウンターの前にメンバーが立っており、事務所の天井には横断幕が張られていたのだ。
そこには手書きで「友香おかえり!」と書かれていた。
「なんで……?」
友香は呟いた。
「私の感よ、って言いたいところだけど、貴史が予知夢で見たの」
「こんな大きな出来事、見逃すはずがないからね」
貴史は胸を張って笑った。
「みんな、今まで荒らしてごべんばざい……」
最後まで言い終わる前に、友香はその場に泣き崩れた。
「いいんだよ。これからも一緒にやっていこう?」
聡が慰めるように言った言葉に、友香は泣きながら頷いた。
その夜。
PapaPopo:マスターさん、今まで荒らしてすいませんでした。
MASTER_Q:いいんだよ。普通に話せるようになってよかった。
TAKA_302:なんか不思議な光景だな……。
NAMI_1212:そうね。でも本当に良かった
SATO_00:そうですね、パパさんのいない間、会社も寂しかったですよ
PapaPopo:なんか普通に話すの、恥ずかしいですね……。
MASTER_Q:すぐ慣れると思うよ。
SATO_00:そうですよ。そっちの方がパパさんらしいです
NAMI_1212:うんうん、ずっと無理してるみたいだったから
TAKA_302:自然体でいこうぜ!
PapaPopo:タカさんはもうちょっと気を遣った方がいいと思います……。
MASTER_Q:ははは、パパさんは自然体でも結構辛口なんだね。
TAKA_302:ぐぬぬ……。気をつけるよ……。
気恥ずかしさはあるものの、こうして普通にチャットできることが友香には嬉しかった。
友香の心の扉は少しずつ開こうとしていた。
(みんな、ありがとう)
こうして荒らしのPapaPopoはネット上から姿を消した。




