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夢現  作者: 猫芽ヒカル
25/34

中川友香④

(結局、返信できなかった……)


 登校中、友香はぼんやりと考え続けていた。


 朝になっても結局MASTER_Qへの返信はできなかった。

なぜ言葉が出てこないのだろう?

MASTER_Qの言葉通り、荒らしに限界が来ているのか?


(そんなことない! そんなの信じない!)


 考えを払うように、首を振る。

 友香の中では、誰かの言葉を鵜呑みにすることなど、敗北でしかなかった。

誰もかれもが、その裏で何を考えているのか分からないのだから。

裏切られるくらいなら最初から信じない方が良いに決まっている。


「友香―!」


 後ろから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 振り返ると、直美が走ってこちらへ向かってくるところだった。


「おはよう」


 追いついてきた直美に、内心うざったいと思いながらも、抑揚のない声であいさつする。


「おはよう。はぁはぁ……」


 息を切らせながら、直美が返事する。

 そんな走ってまで追い付いてくることないのに。友香は心の中で呆れていた。


「友香、あのね」


 息を整えた直美が切り出した。


「私、やっぱり大学受けることにしたんだ」

「そうなんだ」


 直美の一大決心のようだが、友香にはどうでもいいことだった。


「うん、昨日親と話してね、大学行くんなら一人暮らしも許可するって」

「そう、良かったね」

「うんうん! 一人暮らしで夢のキャンパスライフ送るんだー!」


 なんとも単純だ。


「じゃあ勉強頑張らないとね」

「うん! 一人暮らしの為ならやってやるさー!」


 直美はそう言って拳を振り上げた。そして友香に向き直る。


「だからさ、友香も一緒に大学行こうよ!」

「うーん……」


 友香の学力なら充分大学進学も可能である。

 しかし、大学のイメージが良く分からない。

今のような生活が続くのであれば、あまり行きたいと思えない。

まだドリーマーズで一日中働いていた方がマシだ。


「大学よりも働く方がいいかもしれない……」


 しまった。思わず本音を口にしていた。


「えー、卒業してすぐ働くの? 友香のイメージと何か違うなー」


 直美は大げさに驚いていた。


(どうしたんだ私。なんか変……?)


 友香も自分の言葉に驚きを隠せなかった。

他人に本音を話して良いことなど一つもない。

本音を話すなんて馬鹿のすることだ。

今までもこれからも、ずっとそうやって生きていかなければならないのに・・・。


桜並木の蕾は、僅かに、しかし確実に大きくなってきていた。



 授業終了後、友香はいつものようにドリーマーズへ向かった。

今日は三人とも事務所におり、それぞれの仕事をしているようだった。


「こんにちは……」

「おっ、友香いらっしゃい」

「こんにちは」

「おかえりなさい、友香」


 メンバー全員から声をかけられる。

 おずおずと事務所の中へ入り、自分のデスクへ腰かける。


「友香、サイトに予知夢の例をアップしてみたんだ」


 貴史が自分の席のPCを指差す。「今日の予知夢」というコーナーが出来上がっていた。

 今日の記事には “14時ごろ、日経株価9000円割れ”と書かれていた。


「メルマガ配信するのでは……?」

「ああ、当たるのを多くの人に見せてから移行する予定だ」


 聡が横から口を挟んだ。


「まずはサイトにいっぱい人集めたいからな。広告料も入るし」


 なるほど。聡は経営の事を考えて動いているようだ。


「友香、今日はビラ配ってこようと思ってるんだけど、手伝ってくれない?」


 菜穂美が大量の紙をポンポン叩きながら言う。

 紙には「予知夢、レンタル致します!」と訳のわからないキャッチフレーズが大きく書かれていた。


「こんなビラで大丈夫でしょうか……?」


 知らない人が見たらいたずらとしか思われないのではないか。


「まぁ……、少しでも人集めるためよ。何もしないよりは……ね?」

「……。分かりました……」


 人を集める為には細かい努力も必要なのだ、と自分を納得させる。


「ありがとう。じゃあ二人で行ってくるわ」

「ああ、よろしく頼むよ」


 聡に声をかけられ、二人はビラを持って外へ出た。


「街中で配るんですか……?」

「え、いや、マンションとかにポスティングしようか思ってるんだけど」

「そうですか……」


 そうだった。菜穂美はあまりドリーマーズのメンバー以外とは話をしたがらない。

街中で大声を上げてビラ配りなど考えてもいなかったのだろう。

 

 二人はしばらく無言で街中を歩いた。

五分ほど歩いたところにマンションが立ち並ぶ住宅街があった。


「さて、私はあっちのマンションに配って来るから、友香はこの辺りお願い」

「分かりました……」


 菜穂美と別れた後、とりあえず目の前にあるマンションに入ってみる。

入ってすぐ右側に部屋ごとに区切られた銀色の郵便受けがあった。

 勝手に入れても大丈夫なのだろうか。

少し不安を感じながらも恐る恐る一枚ずつビラを入れていく。


 やがて全ての部屋の郵便受けにビラを入れ終わった友香は、隣のマンション、その隣のマンションと場所を移していった。

 ポスティングに少し慣れてきた頃、ちょうど全てのビラが無くなった。


(無くなっちゃったけど、菜穂美はまだ戻ってきてないよね?)


 辺りを見回すがまだ菜穂美の姿はない。

遠くまで配りに行っているのだろうか?


 することが無くなり、友香は手持ち無沙汰で道路の隅に突っ立っていた。


(そういえば、大学の話、菜穂美に聞いてみようかな?)


そんな考えが頭をよぎった。

 大学説明会など行っても、嘘で塗り固められたことしか言われないのは分かっている。

それだったら現役の大学生である菜穂美に聞いた方が、まだ実態は分かるかもしれない。

 いや、でも菜穂美に聞いても本当の事を教えてくれるのかは分からないが……。


 そんなことを考えていると、菜穂美がヨタヨタした足取りで戻って来た。


「誰かに見つからないかって気ぃ張って疲れたわ……。友香終わった?」

「はい、ちょっと前に……」

「すごいね。ポスティングの才能あるわ、友香」


 変なところを褒められた。ポスティングの才能って何だ?


「じゃあ、事務所に戻りましょうか」

「はい……」


 そして、来た時と同様、二人は無言で歩きだした。

 

 しばらくして、やはり先程の疑問を聞いてみることにした。


「ちょっと聞いてもいいですか……?」

「え、何?」


 普段、友香から話を振ることなどない為か、菜穂美は少し驚いたように返事した。


「大学って楽しいですか……?」

「うーん……」


 菜穂美は真剣な表情をして唸り始めた。


「私は……、正直言って楽しくない」


 しばらく考え込んでいた菜穂美がきっぱりと言った。

もうちょっとオブラートに包んだ言い方をすると思っていた友香は少し驚いた。


「そうなんですか……」

「楽しくないのは結局自分のせいなんだけどね。人と積極的に話したりとか楽しむ努力をすれば大学生活は楽しめると思うんだけど」

「菜穂美さんは努力をしなかったんですか……?」

「うん、私は最初から逃げてしまったの。それで今でも大学ではひとりぼっち。一年のころなんかはトイレでご飯食べてたくらいなんだから」

「そうですか……」


 菜穂美は冗談っぽく言ったが、その表情はどこか寂しげだった。


「でも、友香は大学行けば楽しめると思うよ」

「え……? 何で?」

「上手く言えないけど……まあ感ね。私の感は結構当たるの」


 そう言って菜穂美は友香に微笑んで見せた。

全くフォローになっていなかった。

しかし、確かに菜穂美の感の鋭さは今までの経験で知っている。

そういう意味では何よりも説得力のある言葉でもあった。


「ありがとう……」


 友香は菜穂美にも届かないくらい小さな声で呟いた。


 街は夕焼けに照らされて真っ赤に染まり、幻想的な光景を作り出していた。

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