中川友香②
六限目の終了を知らせるチャイムが鳴った途端、教室に騒々しさが戻ってくる。
部活に行く者、遊びに行く予定を立てる者などの楽しそうな姿を尻目に、友香は早々と教室を後にした。
教室を出た直後、後ろから大きな声が響いてきた。
「友香! もう帰っちゃうの?」
声の主は直美だった。
「うん、ちょっと用事があって」
何よりも学校から早く立ち去りたいのが本音だった。
「そう、いつも早いよね」
こんな探りを入れられるのは勘弁だった。
うんざりしながらも適当に言い訳を探す。
「うん、ちょっと家の手伝いをしてるんだ」
「そっか、偉いなー。それで勉強までできるなんて尊敬だわ」
「そんなことないって。ごめん、それじゃ行くね。部活頑張って」
直美との会話を早々に切り上げ、手を振る。
「うん、バイバイ! 友香もお手伝い頑張れー!」
そう言うと、直美はブンブンと大きく手を振って走り去って行った。
いつも元気なことだ。ふう、と一つ息を吐き、友香は学校を後にした。
友香はそのままの足で、駅前にある七階建てのビルへとやって来た。
エントランスのエレベーターで三階へ上る。
エレベーターを降りると、ちょうど視線の先に「ドリーマーズ」と書かれた手作り立て看板が置いてあった。
ドリーマーズの事務所はここに置かれているのだ。
自動ドアを抜けると、カウンターの奥に菜穂美が座っていた。
なにやら事務作業をしているようだ。
「こんにちは……」
声をかけると、菜穂美はこちらに気付き、微笑んだ。
「おかえり、友香。今日初仕事がきたよ!」
「はい、聡さんからチャットで聞きました……」
「そうなんだ。聡と貴史はまだクライエントと打ち合わせしてるみたい。どんな仕事か楽しみだねー」
「そうですね……」
何故かここのメンバーと話すときは、ボソボソとした口調になってしまう。
未だにここの人達と、どう接したら良いのか測りかねているのだ。
友香はカウンターを抜け、菜穂美の真後ろのデスクに座った。
友香の為に用意された席だった。
「今日は、これの打ち込み、お願いできるかな?」
菜穂美に書類を手渡される。事務所の賃貸料など、領収書の束だった。
「はい……」
デスクのPCを立ち上げ、領収書に書かれた出費内容、金額を入力していく。
こういった事務作業の補助や掃除が友香の仕事となっていた。
無心で打ち込みを続ける。菜穂美も作業に集中しているのか、事務所内はキーボードを叩く音だけが響いていた。
「ただいま」
三十分ほど領収書と格闘していると、聡と貴史が戻って来た。
「おかえり。どうだった?」
菜穂美がにこやかに二人に声をかける。
「うん、就職面接に貴史貸して欲しいってさ」
聡が肩をグルグル回しながら言う。
なるほど。面接の日に貴史をレンタルして、結果を知りたいという依頼か。
友香は打ち込みを続けながら、聞き耳を立てる。
「貴史、いけそう?」
菜穂美が心配そうに貴史に問いかける。
「うーん、どうなるかは分からないけど、やれるだけの準備はしてきた」
「準備って?」
「面接会場に入れるように、その会社にエントリーしてきたのさ」
「ああ、なるほど」
これならば、上手くいけば面接の内容も事前に知らせることができる。
「でも貴史、面接大丈夫なの?」
「何十連敗もしたからね、面接は慣れてるよ」
「自慢にならんだろ、それ」
聡のツッコミに友香以外の皆が大笑いした。
「でもレンタル二万円っていうのは安くないか?」
貴史は聡に問いかける。
「一日一組が限度の商売なんだから、一日二万円じゃ元が取れないだろ?」
「まあ、そうなんだけどな」
聡は難しい顔をして答えた。
「ただ、これ以上高くしたら、客が来ないだろ?こんな得体の知れないものなんだからさ」
「そうね、普通は信じないもんね」
菜穂美が口を挟み、聡に同意した。
「ある程度、口コミが広まるまでの我慢だな。広まりさえすれば十万でもいけるんだろうけど」
PCに目を向けたまま、友香は考え込んだ。他にもお金を取る方法がありそうだが……。
「あの……、予知夢をメルマガ配信するとかは……どうでしょうか?」
打ち込む手を止め、つい思いついたことを口に出していた。
「どういうこと内容にするの?」
すぐに菜穂美が友香の話に食いついてきた。渋々友香は話を続けることにした。
「例えば……今回の依頼でも面接前の状況とかで、天気とかは分かると思うんです……。そういう依頼とは関係ない情報を配信するとか……」
友香の話を三人が真剣な表情で聞いている。何だか気恥ずかしくなり、余計に声が小さくなる。
「なるほどな。ちょうどウェブサイトもあることだし、宣伝してみるか。」
友香の話を腕組みして聞いていた聡は納得したように頷いた。
「そうだね、ついでに百発百中であることの宣伝にもなりそうだ」
貴史も友香の提案に賛成のようだ。
「聞き取りがしんどくなりそうね……」
一人、聞き取り役の菜穂美だけは頭を抱えた。
「そうだな、でも菜穂美しかできないことだから。頼んだよ」
実験の一環として聡が聞き取りをしたことがあったのだが、何故か聡が電話すると貴史は完全な覚醒状態になり、夢の内容を全て忘れてしまっていた。
菜穂美のように上手くいかず、聞き取りは失敗したのだ。
「し、しょうがないわね。今まで以上に詳しく聞き取りできるように考えてみるわ」
聡の言葉に、菜穂美は少し照れたように答えた。
「あとはウェブサイトに広告でも張って稼いでいくか」
まだまだ先の見えない会社ではあったが、メンバーの顔はいつも活気に満ち溢れていた。




