向井聡⑤
昼食をコンビニ弁当で済ませ、しばらく昼寝しているといつの間にか二時十分を過ぎていた。
聡は慌ててインターネットで@7の当選番号を確認する。
(一等……8439651……。)
手元の抽選券と一つずつ見比べる。数字はピタリと一致していた。
「うおお……。」
あまりの喜びに呻きに似た声が漏れる。
(本当に当たってる!でもこれから、えっと、どうすればいいんだ? とにかく、メンバーに報告してみようか?)
頭が混乱している。
ひとまず、WINKにログインしてみることにした。
貴史と菜穂美、そして友香がチャットを始めていた。
SATO_00:こんにちは、当たってたね!
NAMI_1212:サトーさん、ハロー!やったね!
TAKA_302:おう、サトーさん! 当たったな。
PapaPopo:はしゃぐな! バカヤロー共!
SATO_00:正直、俺今どうしていいか、混乱中。
NAMI_1212:まずは銀行に行って換金かな? 合ってる?
TAKA_302:た、たぶん……。
PapaPopo:いい大人が馬鹿ばっかりかよ!
SATO_00:1000万もどうしましょうね……
TAKA_302:現実感がないな。
NAMI_1212:とりあえず、預金かな……
SATO_00:そうですね……
どうやら他のメンバーも混乱しているのは一緒のようだ。
TAKA_302:こういう時にマスターさんがいると心強いんだけどな~。
PapaPopo:役に立たない大人がここに3人ほどいます!
NAMI_1212:マスターさんも、もちろん買ってるよね?
SATO_00:そうだと思いますけど
TAKA_302:とりあえず、マスターさんが揃ってから今後のことは考えよう。
NAMI_1212:そうね、とりあえず換金してくるわ
SATO_00:俺もナミさんと少し時間ずらして行ってきます
TAKA_302:じゃあ、また夜に。
PapaPopo:来なくていいって言ってんだろ!
それからしばらく後、聡は銀行に換金に来ていた。
銀行の応接室に案内された聡の目の前には、現金一千万分の札束が積まれていた。
「こちらが当選金になります」
銀行の中でも上級の役職らしき男性が、ニコニコ愛想笑いを浮かべて話しかけてきた。
目の前にあってもこれが自分の持ち物だという実感が湧かない。
「当選金はどうなさいますか?」
男性が笑顔を崩さず尋ねてくる。
「と、とりあえず、ここに預金しといてもらえますか」
「ありがとうございます。それでしたらこちらに印鑑を」
手続きが終わると、男性は聡に向かって深々とお辞儀した。
「今後とも当行を御贔屓にお願いします」
なんとなく聡も釣られて頭を下げた。
銀行を出た聡は、慣れない緊張感から解放されて、肩を回した。
人にペコペコされるのは初めての経験だった。
(他のメンバーもそうだろうけどな)
他のメンバーが神妙に当選金を受け取っている姿を想像して、聡は一人ニヤけた。
TAKA_302:さて、今回のミッションは大成功に終わったわけだけど、
TAKA_302:この後はどうしようか?
NAMI_1212:来週もまたやる?
SATO_00:どうしましょうかね、あんまりやると怪しまれそうな気もしますけど
PapaPopo:お巡りさん! コイツラです!
MASTER_Q:パパさん、別に悪いことした訳じゃないんだよ。
その夜、全員が集まったチャットでは今日の事、そして今後の事が話し合われていた。
SATO_00:別に悪いことをしている訳ではないけど、どこか罪悪感ありますよね
TAKA_302:そうだな。別にお金が欲しい訳じゃ……欲しいか。
NAMI_1212:親に仕送りもらうよか、ましだよね
PapaPopo:脛かじり息子! 親不孝者!
TAKA_302:ぐぬぬ……。
MASTER_Q:皆さんは、この予知夢をどんなことに使いたいんだい?
NAMI_1212:そりゃあ何か役に立つことに使いたいよねー
PapaPopo:ナミ当たり前のこと言ってんじゃねー!バカ!
MASTER_Q:自分の役に立つことかい? それとも人の役に立つことかい?
TAKA_302:そりゃ、自分もハッピーで人の役に立つことが一番いいよな。
SATO_00:そんな使い方ってありますか?
NAMI_1212:うーん、すぐには思いつかないね
TAKA_302:全然わかんね。
MASTER_Q:またオフ会で決めるかい?
PapaPopo:またオフ会かよ!ありえねー!
NAMI_1212:賛成! 今度はちゃんとマスターさんも来てね!
TAKA_302:そうだね、毎週集まってもらって悪いけど。
MASTER_Q:今度はなるべく行きたいね。
SATO_00:タカさんだけの為じゃないですよ。みんなも楽しんでますから
PapaPopo:全然楽しくねーぞ! オフ会はんたーい!
NAMI_1212:それじゃそれまでに各自色々考えてくること!でいいかな?
SATO_00:了解です
TAKA_00:OK!
MASTER_Q:分かったよ。
PapaPopo:無視するなー! 反対だって言ってるだろー!
こうして第三回のオフ会が決定した。
メンバーは次回までに各自新たな予知夢の活用法を考えることになった。