表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢現  作者: 猫芽ヒカル
15/34

向井聡②

 一同がファミレスを出たのは、四時間後の事だった。


「コーヒー一杯でずいぶん長居したなあ」

「いいんじゃない?どうせ空いてたんだし」

「女の子はそういうのに頓着しないもんなんだな。こういう会は慣れてるからか?」

「そ、そういうことよ」


変なところで菜穂美は言い淀んだ。

気になって菜穂美の方を振り向いた瞬間、目の端に友香の姿が映った。


(なんだ?)


友香は聡たちの後ろでじっと一点を見つめて、立ち止まっていた。

誰かを見ているようだ。

薄暗くてよく分からないが、老人のようだった。


「知り合いなのか?」


友香のもとへ駆け寄り尋ねた。


「いいえ……」


そう答えたにも関わらず、友香は老人の方に向かって会釈した。

そのまま何事もなかったかのようにスタスタ歩いていく。


(やっぱり何だかよく分からない子だな……)


 前方では貴史と菜穂美がおしゃべりを続けていた。


「@7って一等当たったらいくらなの?」

「えっと、百万円くらいじゃなかったっけ?」

「ということはみんな当たったら……五百万かー。それが毎週かあ」

「上手くいけば、の話だけどね」

「上手くいくだろ! 貴史の夢は百発百中だぜ」


二人の会話に割って入る。


「そうね、貴史も自信持ちなさい。百万円入ったら何買おうかなあ。うふふ」

「自分の為かよ! でもマスターさんが言ってたみたいに、みんなハッピーになれるかもね」


(みんなハッピーか、本当にそうなればいいな)


しみじみそう思う。

聡は少し風変わりなこのメンバーの繋がりを、恐らくこの中の誰よりも大事に思っていた。


 やがて、駅に着いた。


「貴史と俺は都心線の坂上駅だけど、菜穂美と友香はどこに住んでるんだ?」

「えっ」


聡の問いに、菜穂美と友香は驚いたような顔をしている。


「二人は近所に住んでるの?」

「まあ、近所っていうか最寄駅が一緒なんだ」

「偶然ね、私も坂上駅なの」

「私も……」


菜穂美と友香の言葉に、聡も驚いた。

近所に住む人間がたまたまネットで知り合っていたのだ。

そんな偶然があるのだろうか。


「WINKって坂上駅周辺だけのサービスじゃないよね?」

「そんなことあるわけないでしょ」

「たまたま……?」

「じゃないかな……?」

「ということはマスターさんも坂上駅周辺に住んでるのか?」

「だったら偶然にしては怖すぎじゃない?」


 メンバー全員が黙り込んだ。

誰一人、この不可思議な現象を説明できないのだ。

一つ、大きな謎を残したまま、第二回のオフ会は幕を閉じた。



 その夜、WINKチャットではMASTER_Qへ今日のオフ会の報告が行われていた。

菜穂美は寝てしまったのか、今日は不在だった。


 MASTER_Q:なるほど、予知夢を利用して、クジを当てようっていう作戦だね。

 SATO_00:ええ、面白そうだと思いません?

 PapaPopo:サトー不正ダメ、ゼッタイ!

 MASTER_Q:そうだね、上手くいくといいね。

 TAKA_302:ちゃんと夢見れるように頑張るよ。

 MASTER_Q:でもそのクジの予知夢が見られるかは分からないんだろう?

 SATO_00:ええ、でも今までの夢の傾向から、予知夢は次の日に起きる最もインパクトのある出来事を見る可能性が高いんじゃないかってことになりました

 SATO_00:ねえ、パパさん?

 PapaPopo:話振ってくんじゃねえ! サトーウザい!

 MASTER_Q:なるほど。それならクジが当たったら夢に見る可能性も高いということだね。

 TAKA_302:うん、喜んでいる夢を今まで見たことがないのが心配ではあるけど。

 PapaPopo:タカは不幸が取り柄!

 SATO_00:まあ大丈夫でしょう!失敗したら次の良い作戦考えればいいだけですし。

 MASTER_Q:そうだね、タカさんもそんなに深刻にならずに、リラックスして眠ればいいと思うよ。

 TAKA_302:そうだな。

 PapaPopo:もっと緊張感持て! 堕落野郎!

 SATO_00:それから、予知夢とは別に今日気になったことがあったんですが……。

 MASTER_Q:ん? なんだい?

 TAKA_302:マスターさん以外、住んでいるところがみんな近所だったんだ。

 MASTER_Q:なんと!

 SATO_00:ネットで住んでいるところ聞くのはマナー違反かもしれませんが、

 SATO_00:マスターさんのお住まいはひょっとして、坂上駅周辺では?

 PapaPopo:人の住所勝手に晒してんじゃねえぞ!

 MASTER_Q:いや……、私は全然違うところだよ。

 TAKA_302:えー、そうなのか。じゃあやっぱり偶然か。

 MASTER_Q:きっと君ら四人は強い運命で結ばれているのかもしれんな。

 PapaPopo:キモイこと言ってんじゃねー!

 SATO_00:うーん、そうなんですかね……。

 TAKA_302:まあ深く考えてもよくわかんないや。僕はそろそろ寝るわ。

 MASTER_Q:うむ、私もそろそろ寝ることにするよ。

 PapaPopo:一生寝とけ! もう来るな!


MASTER_Qだけ別の場所に住んでいるのもなんだか変な気がする。

何か隠しているのか?

しかし、一体何を隠すことがあるんだ?

やっぱり本当にただの偶然なのか?

考えても答えが出るはずがなかった。

釈然としないものを残したまま、この日のチャットはお開きとなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ