そして物語は
全てを終えた時、南方から王都へはすでに帰還の報が届けられていた。
辿る村々では行きと違い、人々の顔が安堵と希望に輝いていた。少し誇らしい。
王都の門をくぐってから立派な馬車に乗せられて、凱旋パレードみたいなのをやらされた時は恥ずかしかったけど。
おまけに国を救ったヒーロー&ヒロイン扱いでお似合いですねって憧れの目で見られた時は、苦笑するしかなかった。
そんなの全然、違うのに。
クロードはあたしのことなんか、好きじゃないのに。
『帰る、のか』
『もう誰も待ってないし、戸籍とかもないだろうけどね。おとーさんのお墓だけでも見にいかなきゃ』
『こんなことを言う権利などないとわかっているが……何千年と過ぎた世界で、お前は生きていけるのか』
『大丈夫、なんとかなるよ』
もし生きていけなかったとしても、構わない。
だって一番大事だったものは、もう失われてしまったもの。
大事にしたいと思ったものは、手に入りっこないんだもの。
クロード。
心配させてしまってごめんね。だけど嬉しいよ。
あなたにとって守るべき幸せのひとつに、あたしのことも入れてくれるんだね。
いつのまにか、そう思ってくれてたんだね。
『ありがとう、あのねクロード』
『行くな』
『誰かの幸せを守るばっかりじゃなくて、あなたも幸せになろうとしなきゃだめだよ。苦しい時は弱音吐いたっていいんだよ。完璧じゃないあなただって、きっと皆嫌いになったりしないよ』
――そう。嫌いになんかならなかったよ。それどころか。
『本当のあなたは、ダメなとこもいっぱいあるけど優しいひとだもん。一緒に旅してきたあたしが保証する』
『行くな……!』
お願いだから止めないで。
あたしは全然優しくない。強くない。
あなたが他の人と幸せになるところなんて見守ってあげられない。
一人ぼっちの世界で、これ以上一人になりたくない。
だから、お願い。
そんな風に必死な顔で呼び掛けないで。手を伸ばさないで。
このまま行かせてよ、お願いだから……!
『だ、いじなもの、をっ!まちがえない、でっ』
しゃくりあげながら叱りつけると、彼は泣いてしまいそうに顔を歪めた。
折角の綺麗な顔も威厳も台無しだよ。お馬鹿さん。
そう思った瞬間、あたしの意識は深い闇の底へと沈んでいった。
疲労と心労とで丸二週間寝込んだのだと、後でクロードから聞かされた。
――そこから先の物語を語る言葉を、今のあたしはまだ持たない。
冷静になんて振り返ることは出来ないし、結末に救いが齎されるのか、それすらもまだわからない。
ただ。
歪んでしまったあたしとおとーさんの人生と。
あたしが選び取ったことで狂わせた誰かの運命を。
その重みを。
生涯、忘れることはないだろう。




