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脇役令嬢の失恋  作者: 夕燼
異世界勇者の選択
13/26

そして物語は

 全てを終えた時、南方から王都へはすでに帰還の報が届けられていた。

 辿る村々では行きと違い、人々の顔が安堵と希望に輝いていた。少し誇らしい。

 王都の門をくぐってから立派な馬車に乗せられて、凱旋パレードみたいなのをやらされた時は恥ずかしかったけど。

 おまけに国を救ったヒーロー&ヒロイン扱いでお似合いですねって憧れの目で見られた時は、苦笑するしかなかった。

 そんなの全然、違うのに。

 クロードはあたしのことなんか、好きじゃないのに。


『帰る、のか』

『もう誰も待ってないし、戸籍とかもないだろうけどね。おとーさんのお墓だけでも見にいかなきゃ』

『こんなことを言う権利などないとわかっているが……何千年と過ぎた世界で、お前は生きていけるのか』

『大丈夫、なんとかなるよ』


 もし生きていけなかったとしても、構わない。

 だって一番大事だったものは、もう失われてしまったもの。

 大事にしたいと思ったものは、手に入りっこないんだもの。

 

 クロード。

 

 心配させてしまってごめんね。だけど嬉しいよ。

 あなたにとって守るべき幸せのひとつに、あたしのことも入れてくれるんだね。

 いつのまにか、そう思ってくれてたんだね。

 

『ありがとう、あのねクロード』

『行くな』

『誰かの幸せを守るばっかりじゃなくて、あなたも幸せになろうとしなきゃだめだよ。苦しい時は弱音吐いたっていいんだよ。完璧じゃないあなただって、きっと皆嫌いになったりしないよ』


 ――そう。嫌いになんかならなかったよ。それどころか。


『本当のあなたは、ダメなとこもいっぱいあるけど優しいひとだもん。一緒に旅してきたあたしが保証する』

『行くな……!』

 

 お願いだから止めないで。

 あたしは全然優しくない。強くない。

 あなたが他の人と幸せになるところなんて見守ってあげられない。

 一人ぼっちの世界で、これ以上一人になりたくない。

 だから、お願い。

 そんな風に必死な顔で呼び掛けないで。手を伸ばさないで。

 このまま行かせてよ、お願いだから……!


『だ、いじなもの、をっ!まちがえない、でっ』


 しゃくりあげながら叱りつけると、彼は泣いてしまいそうに顔を歪めた。

 折角の綺麗な顔も威厳も台無しだよ。お馬鹿さん。

 そう思った瞬間、あたしの意識は深い闇の底へと沈んでいった。

 疲労と心労とで丸二週間寝込んだのだと、後でクロードから聞かされた。

 


 ――そこから先の物語を語る言葉を、今のあたしはまだ持たない。

 冷静になんて振り返ることは出来ないし、結末に救いが齎されるのか、それすらもまだわからない。

 ただ。

 歪んでしまったあたしとおとーさんの人生と。

 あたしが選び取ったことで狂わせた誰かの運命を。

 その重みを。

 



 生涯、忘れることはないだろう。

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