勇者の目覚め
あたしはファザコンだ。
友達にはからかわれるし、そのせいでなかなか彼氏も出来ないけど、こればっかりは治しようがない。
だって、うちのおとーさんは世界で一番可愛い人だから。
若い頃に死に別れた妻をずーっと想って時々涙ぐんじゃうロマンチストさとか。
すごく頭が良くて仕事が出来るくせ、妙に人情に弱くて貧乏籤引いちゃうところとか。
何をしてあげてもありがとうって心から嬉しそうに笑うところとか。
だけどあたしを傷つける人に対しては断固として戦ってくれる強さとか。
おとーさんはあたしの理想の王子様で、守ってあげなくちゃいけない唯一の人だった。
だから、あたし――森村咲耶がお料理上手なのはおとーさんのおかげ。
名門女子高で学年一位から落ちたことがないのも、近所の人に絶大な評判の良さを誇るのも、父子家庭の娘だからなんて言われないように頑張ったからだ。
あたしの将来の夢はいくつもある。
某有名大医学部に奨学生として入って、立派なお医者様になって、いつか名医としてインタビューを受けたらこう答えるの。
『敬愛する父がいてくれたから、ここまでくることが出来ました』
……ってね。
とびきり素敵な人と結婚して、誰もが見惚れる花嫁になって、披露宴のお手紙で今までの感謝をぎゅうぎゅうに詰め込んだお手紙を書くのもいい。
どんなに素晴らしい父親だったかを知って、居並ぶ招待客は尊敬を込めた温かな眼差しでおとーさんを見るだろう。
もちろん子供にはおとーさんから一文字貰って名前をつけちゃうんだから。
それからそれから。
いつものように未来予想図を描きながら布団の中で微睡んでいると、扉の開く音がした。
むむ。
いくら最愛の父とはいえ、年頃の乙女の部屋にノックなしで入るのはNGです。
「おとーさんったら、ノックくらいしなきゃだめで……」
しょ。
紡ぐ筈だった語尾と一緒にフリーズするあたし。
起き上がったあたしを見てフリーズする見知らぬ男。
真っ白になった頭の片隅で、尋常じゃない美形だなと感心する。
端麗な顔立ちもさることながら、きらきらした銀の髪に透きとおるアメジストの瞳がまるで宝石みたいだ。
銀糸で縁取られた白い軍服にマントという服装も豪奢で気品があって、ねえ、それはいいんだけど。
……誰かこのシチュエーションについて説明してくれないかな?