+1話「サンタ否定を継ぐ者」
この物語は、この作者が数ヶ月まで書いた「フリーナイン」の外伝的な作りになってます。
ので、お手数ですが「フリーナイン」から読んでから、本編を読んで頂けると幸いです…。
現在、「フリーナイン」が連載中断となってますが、時事のイベントに合わせて書いた軟派な構成になっています…。
それでも、宜しければどうぞ…。
………………
雪の降らない十二月のS県K市。
どうやら、地球の温暖化は深刻のようだ。
だが、もっと深刻な男がいた。
その男は、現在、高級ブランド店の店前で、ヤンキー座りをして、煙草を吸いながら己の財布を見つめている。
男の財布には、壱万円だけ。
冬の気温と同じように、寒い財布の中身だ。
「やっぱ、買えねぇよな…」
そう呟くのは、地獄のなんでも屋、フリーナイン事務所の代表こと焼野原九乃助。
彼は悩んでいた。
何故なら、あと4日でクリスマス。
そのクリスマスという、イベントが関係しているから。
話は、数時間前に遡る。
………………
彼の住むボロアパート。
管理人さんのオバサンが、アパート前で浮かれながら、ジョン・レ○ンのクリスマスソングを鼻歌していた。
「ねぇ、九乃助さん」
と追われ身の少女、レビンは九乃助の部屋に現われた。
部屋には、テレビゲームに夢中の純太少年と、漫画読みながら煙草を吸う九乃助が居た。
「なんや?」
「もうすぐ、クリスマスですねー」
ぎこちなく彼女は言った。
「だから…?」
九乃助は、口から煙を吐き出す。
「いや…、その…」
レビンの態度が、おどおどしている。
九乃助は、煙草を灰皿に押しつけた。
「俺はガキの頃、親父に…」
そう言って、九乃助は自分の子供の頃のことを語り始めた。
………………
「父ちゃん!父ちゃん!」
当時、五歳の九乃助が父親、マサシに近寄る。
この日は、クリスマスだった。
「冬馬君がサンタさんから、ガンダムのプラモデルもらってー。僕も欲しいなー」
そう無邪気に、九乃助が言う。
だが彼の父、マサシは平然としている。
「サンタさん、うちに来るかなー」
そう言う我が子、九乃助にマサシは悲惨な一言を放った。
「サンタなんか、いねぇ…」
その一言で、五歳の九乃助は固まった。
「あれは、玩具会社の陰謀だ。あと、ケーキ屋とか…」
五歳の子供に、普通は言わないし、言えない台詞をベラベラ喋った。
「大体、仏教の日本が…」
ここからの台詞は、なんか怖いからカットさせてもらう。
父親のまさかの言葉で、幼いながら、九乃助はサンタが居ないことを知る。
こんな親だったから、彼はグレたのだろう。
この出来事以来、毎年、九乃助はクリスマスのたびに小学校、中学校、高校に、クリスマスに対する怨念を表現するような名言を残した。
その一部を紹介しよう。
「本当のクリスマスプレゼントとは、玩具会社に来るクリスマスでの売り上げだ(焼野原九乃助、小学校卒業文集『つちのこ探し行って、レスキュー呼んだ遠足』より)」
「親父は、子供の頃、枕上にクリスマスプレゼントがあり、その隣に、俺の爺さんが、うっかり落としたクリスマスプレゼント購入時のレシートがあって、サンタが居ないことを悟った(焼野原九乃助、中学校卒業文集『カワサキのゼファーを借りて、すぐ板金送りにした日』より)」
「こんなに苦しいのなら…、こんなに悲しいのなら…、クリスマスなど要らぬ!!(焼野原九乃助、高校卒業文集『一つの夜の祭り』)」
以上のように、九乃助がクリスマスに対する怨念はすざましい。
………………
「ってことだ…」
自分の過去を話した九乃助は、大きく息を吸い、タバコの煙を吐く。
その話を聞いて、純太、レビンの顔は固まっていた。
そして、今の九乃助が存在する理由が理解する。
「だから、クリスマスのパーティーなんざ絶対やらんし、クリスマスプレゼントなんざも買わん!!!ケーキなんざ食わん!!日本人は、お茶とヨーカンだ!!!だっははは!!」
調子に乗ることでもないのに、調子に乗った九乃助は勢いづいて、そう言った。
だが、レビンの表情は曇る。
少し複雑な表情だ。
さらに、もう一声、九乃助は言う。
「クリスマスプレゼントなんざ、いらんわ。大体、もらって喜ぶバカ居るかよ」
その一言で、レビンの頭の中で、なにかが切れた。
彼女は、そのまま、テーブルでくつろぐ九乃助の元まで駆けた。
「ん…、どった?」
近づいてきたレビンの顔を、九乃助は眺めた。
そのレビンの目は涙ぐんでいる。
すると…。
バチン!!
レビンは、九乃助の頬を思いっきり平手で叩かれた。
あまりにも、いきなり過ぎる出来事だ。
それには、九乃助どころか、純太の顔が固まる。
「えっ…」
純太とかに殴られたのなら、親父にも、ぶたれたことなかったのに!という九乃助だが、レビンにぶたれたのは初めてだったので唖然としていた。
ぶたれた頬が、赤くなっている。
「九乃助さんのバカ!!」
そう叫んで、レビンは駆け足で出て行った。
九乃助、純太の二人は唖然としている。
……そして、1時間後……
「なんやねん…、あの子娘、いきなりぶちやがって…」
元に戻った頬を、右手で撫でながら、九乃助は自分の愛車のCR−Xの洗車をアパート前でしていた。
左手で、ホースを持って車の洗剤を洗い流している。
そうしている彼の背後から、足音がした。
「九乃助、どうした?」
足音と同じく、声が。
九乃助が振り返ると、彼の妹分のキエラがいた。
彼女は、ちょうど買い物から帰って来たばかりのようで両手にビニール袋を持つ。
「洗車だよ」
機嫌悪そうに、九乃助は答えた。
「あっそ…」
キエラは、九乃助の機嫌の悪さに気づく。
それでも、彼女ももう一声言う。
「それにしても、あんたは幸せ者だよね」
「どこが…」
「レビンさ、数日前から、あんたのため、クリスマスまでに手編みのマフラー編んでたし」
九乃助の手から、ホースが落ちた。
血の気が、自然と引いてきた
そのせいか、彼の顔が青くなった。
「まったく、あんたも意外とモテるんだからね」
キエラは、九乃助の変化に気づかず言う。
九乃助には、大量の冷たい汗が流れる。
「おい…、さっき、なんて言った…」
もう一度、言うように九乃助は尋ねた。
九乃助の隣の部屋は、レビンの部屋である。
その部屋で、レビンは不器用ながらに編んだ自分のマフラーを見た。
そのマフラーは、けして綺麗に出来た物ではなかったが、彼女のなりに一生懸命編んだ物だ。
クリスマスに、九乃助に渡すために自ら編んだ。
そのマフラーを見て、彼女はつぶやいた。
「九乃助さんのバカ…」
「あああああーーーーーー!!!!!!いらないとか、言っちゃったYOーーーーーーー!!!!!!!!」
そうレビンがつぶやいている時、九乃助は叫ぶ。
自分のタイミングの悪さに、叫びまくっている。
………………
以上のことがあり、現在、レビンは、九乃助にまったく口を聞いてくれない。
知らなかったとはいえ、プレゼントを完全否定した九乃助は罪悪感に浸る。
だから、九乃助はせめてもの罪滅ぼしとして、彼女へのプレゼントを買いに高級ブランド店の店前に居る。
だが、購入出来るわけもなく、ヤンキー座りをして煙草を吸いながら己の財布を見つめている。
「まさに、サンタ苦労す」
果たして、九乃助の運命はいかに。
※「サンタは居ないとか言うな!!サンタは、オレだ!!!!」
と、言える位の男になりたいものです。
………………
続く…
粗末で、手数の掛かる作品ですが、とりあえず12月25日まで続けるつもりです…。