3 選別と再編
クランを作る。
その方針自体には、もはや異論は出なかった。
「で、具体的には何をするんだ」
ラーズは腕を組んだまま言った。
納得はした。だが理解はしていない。
迷宮を攻略するために、何がどう変わるのか。
「人を増やす」
ロディは簡潔に答えた。
「既存のパーティーをいくつか取り込む。まずは数を揃える」
「頭数だけ増やしても、意味なんかねーぞ」
ラーズはわずかに眉をひそめる。
強い少数で押し切る。それがこれまでのやり方だ。
数を増やすことに、価値を見出しきれていない。
「ただ増やすだけじゃない」
ロディは続けた。
「ちゃんと選別したやつらを選ぶ」
「そんなに上手くいくか? おっさんどもが入っても従うとは思えないし、若手は全然使えないのも多いだろ」
本質を突いた質問である。
「お前たち、教導依頼は受けてるな」
「ああ、新人の面倒見るやつだろ」
ギルドから回される、半ば義務の仕事。
「装備の更新や、物資が揃うまでの期間、俺とクリスはあれを重点的に受けてた」
クリスが軽く頷く。
「戦闘だけ見てても意味ないからね。基礎の段階の方が、癖はよく見える」
「……その中から、使えそうなやつを選ぶわけか」
「その通り」
冒険者がどうしても休む期間に、二人は簡単な依頼としてそれをこなしていた。
危険度はそれほど高くないが、経験はある程度必要。
ギルドは貢献度として評価してくれるが、報酬も高くない。
つまり普通は忌避する依頼。
「その中で見てきたが、有望なやつにはその後も色々とな」
「ああ……」
ロディが若僧に声をかけているのは、メンバーもたびたび見ていたことだ。
「伸びるやつ、連携がまともなやつ、逆に致命的に欠けてるやつ」
個人ではなく、パーティー単位で。
「使える連中には、もう話は通してある」
「……は?」
ラーズが目を見開く。
「いつの間にだよ」
「だから言ってるだろ。休んでる間だ」
特別なことではない。
ただ時間の使い方が違うだけだ。
ロディはいくつかのパーティー名を挙げた。
およそ中層までは到達しているパーティーばかりだ。
実力はあるが、あと一歩の突破力に欠ける連中、あるいはメンバーの構成が不適切。
「こいつらをまとめる」
「それで強くなるのか?」
「まあだいたいは、メンバーの分担に失敗してるからな」
竜の咆哮のようなバランスは、なかなかありえないのだ。
「あとは実力の底上げか」
「どうやって?」
「教官を入れる」
「教官?」
「いるだろこの街には。暇を持て余してるが、今更迷宮に行くのは億劫な連中が」
ラッドが反応する。
「……引退した連中か」
「前線から退いただけだ。腕は落ちてない」
戦わせるつもりはない。
「若手を鍛えさせる。連携、判断、撤退。経験でしか補えない部分を底上げする」
単純な戦力追加ではなく、組織的な強さを高める。
なるほど、と仲間も頷くものではあった。
ただ、先ほどもセレンが触れた。
「それ、ギルドはどうするんだ?」
ラーズの疑問は当然だった。
「関係ない」
ロディは即答する。
「冒険者に依頼するんじゃなく、開いてる道場に送り込む形でもいい」
つまり――。
「ギルドの管轄外になる」
「……なるほどな。確かにそれならギルドとは関係ない」
上手く出し抜くものだ、とエーリヒは感心する。
ラーズは低くうなる。
「そこまでしてやる必要があるのか? 結局は実戦を経験しないと、鍛えられないだろ」
「準備は必要だ。それにメリットはもう一つある」
ロディは特に隠すこともなく加える。
「俺たちより年上の連中は、基本的に最初は誘わない。すると向こうからちょっかいをかけてくるかもしれないが、そういう時にバックに引退冒険者がいると?」
「……おっさん連中からしたら先輩格で、下手に口出しもされにくいってことか」
「抑止力の一つにはなる」
内側も外側も、無駄な摩擦が減る。
ロディはいつも、先のことを考えている。
だから苦戦はしても、致命的な事態には陥らない。
「しかし、ギルドとの関係はどうするんだ? 何か手を打ってくると思うが」
具体的には分からなくても、エーリヒの指摘も間違いない。
「ギルドには伝えるさ」
下手に隠したりはしない。
「パーティーの拡充としてな。クランと同じだと分かる形で」
「警戒されないか?」
「するだろうが、正面からは来ない」
「理由は?」
「冒険者ギルトのマスターは貴族の人間だ。だが俺の実家よりも爵位で落ちる」
利用できるものはする。
この場合は相手が、勝手に躊躇するぐらいだろうが。
ロディの実家は伯爵家であり、王国の大貴族である。
その嫡流であり、当主を父とするが、ロディ自身は三男。
それでも騎士として、己の場所を作ろうとはしていたのだ。
「表向きは協力するだろうが、介入はしてくるだろうし、あるいは乗っ取りさえ考えるかもな」
「そういう貴族同士の腹の探り合い、俺たちには出来ないぞ」
ラーズやラッドはもちろん、エーリヒにしてもそうだ。
上手く立ち回ることが出来たら、もうちょっと違う場所にいた。
ロディとしても色々と考えているのだ。
「で、迷宮はどうする。俺たちの目標は本来、そっちなんだぞ」
ラーズが本題に戻す。
そこが変わらなければ意味がない。
「もちろんやるというか、そこをどうにかしないとクランは成立しない」
「あん?」
「この街のギルドが成立しているのは、迷宮があるからだ。その迷宮の管理を俺たちがしてしまえば、ギルドも手は出せない」
「神代の時代からある迷宮を、どうやって管理するって?」
「人の手には余るものです」
エーリヒとクラーラは、そういった知識を持っている。
だがロディは違うのだ。
「そこは今は秘密だ。まだ知らない方がいい」
迷宮は神々が作った、とも言われる。
しかしその正確なところは、神話の中でさえあやふやなものだ。
神代文字などの記録はあるが、ほとんど解明されていない。
「……まあ、そこまで言うなら見せてもらうか」
知識に対する欲求が強いエーリヒが引く。
そしてクラーラに対しては、逆にロディが質問することがあった。
ギルドとは別の、神殿勢力。
これは敵に回してはいけない。
「魔族を滅ぼすことは、神殿の教義でいいんだよな」
「その一部ではあります」
クラーラに確認して頷く。
「迷宮はやっぱり、管理させてもらおう」
それはロディにしか出来ないことだ。
竜の咆哮のパーティーの拡大。
若手のパーティーのかなりが、それに加入する。
その手続きを行ったロディは、ギルドの三階に呼ばれた。
待っていたのはお飾りのギルドマスターではない。
実質的な支配者である、現場上がりのサブギルドマスターだ。
「身に合わないことをやってると思ったが……」
鋭い目つきはやはり、元冒険者の肩書によるもの。
だが彼もまた、下級貴族の出身ではある。
そうでなければギルドの運営など出来はしない。
そして同時に、ギルド側かそれとも、冒険者側か。
「クランなどを作るとは、本気か?」
「このタイミングで作らないと、あとは取り込まれるばかりでしょう」
「そうかもしれんが、攻略の方はどうなんだ」
「最後の準備にかかっていますよ」
「そうか……」
思った通りサブマスターは、完全な体制側ではない。
「クランはだいたい、いずれ潰れるものだが……お前なら大丈夫かもしれないな」
組織を運営する能力は、それが大きくなるほど、そのためのノウハウが必要となってくる。
それをロディは持っているからこそ、サブマスターは警戒している。
正直なところ、結局は貴族の出身が、主導権を握ることに変わりはない。
子爵家の四男と、伯爵家の三男では、どちらが上かも分かり切っている。
「騎士団の士官学校を、次席で卒業したそうだな」
誰にも言ってはいないが、いつの間にか調べたということか。
「辺境伯令嬢との、婚約の話もあったんだろう?」
「よくご存じで」
前者と違い後者は、貴族社会に伝手がないと、入ってこない情報のはず。
なぜロディがそのエリートコースから、冒険者になったのか。
そのあたりも既に調べたのだろうか。
「好きにすればいいが、上手くやれよ」
この言葉はロディにとって、少し意外なものであった。
「どちらが主導権を握っても、ギルドの実質的なトップはワシだ」
そこにさえ手を触れなければいい、ということなのだろう。
こうやって黙認と言うか、味方のふりをする。
だがロディが甘いところを見せれば、そこを普通に突いてくる。
ギルドのような組織の中では、当たり前のことだ。
貴族社会のような、もっと陰惨な人間関係とは、ちょっと別のもの。
「このギルドの持っている戦力もノウハウも、出来れば失いたくないのは私も同じことです」
そう言って部屋を去ったロディだが、サブマスターは控えていた秘書に命じる。
「誰かを潜入させるか、集めた人間とつながっている者を整理しろ」
確かにどちらに転んでも、それはそれでいいのだ。
だがどちらに転ぶかは、探らせておいて損はない。
(争うことにでもなれば、早々に終わらせる必要がある)
この街のサブマスターとしては、本当にどちらでもいい。
だがその行方がどうなるか、調整する必要はある。
鋭い眼光は、窓の外の街並みに向けられていた。




