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元騎士の俺は絶対に誰も追放しない! ……そしてなぜか最強軍団が生まれた  作者: 草野猫彦


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1 竜の咆哮

 巨大で鋭い爪の攻撃。

 戦闘開始直後は、必死で避けていたものだ。

(だけどもう、最適化したぞ!)

 力で抵抗するのではなく、その動きを見切り、ロディの盾が受け流す。

 負傷と疲労で消耗していた竜は、大きく体勢を崩した。

「行けっ!」

「おうよ!」

 神の恩寵を受けた槍先は、強靭な鱗をも貫く。

 竜の眉間を貫通する穂先。

 はるか古代から生きると言われている、迷宮の守護竜。

 その巨体がゆっくりと崩れ落ちた。

 幻獣種とも言われる竜種が、ついに倒れたのである。


 戦士たちは、そこで腰を下ろす。

 疲労は極限。間違いなく今までで、最大の激戦であった。

「ポーション配るよー」

 退避していた斥候のクリスが、戦闘員に回復薬を配っていく。

 これである程度は回復したのか、戦士のラーズが立ち上がった。

 竜をも殺した、その槍を振る。

「よし、一気に最後まで攻略しようぜ」

 その言葉にはさすがに、他の仲間も驚いたが。


 上位竜との対決で、体力も魔力も使い切った。

 装備もあちこち痛んで、修理が必要だろう。消耗品もかなり備蓄が少ない。

 それなのに先に進もうとするあたり、愛すべき馬鹿である。

「無茶ですよ。竜種との対決で、限界まで消耗しています。それにこの竜の素材、どうするんですか?」

 クリスの正論に、ラーズは口ごもる。

「どうするって……どうしよ?」

 ノリだけで迷宮の最深部に進もうとしたのか。

 確かにその勢いが、必要な時もあったが。

 そのうちうっかり死にそうで困る。


 リーダーであるロディは、最初からここで一時帰還だなと計画していた。

 どうせ最下層まで来るパーティーはいないのだから、竜の素材回収のためにも、装備の修理のためにも、ここは撤退が妥当である。

「竜は腐敗しないようにして、何度かに分けて地上に持ち帰る必要があるな。また準備を万全にして、封印に挑む」

「冒険しない冒険者だな」

 ラーズはそう混ぜっ返したが、道理としてはロディが正しい。

 冷静に考えて、消耗が激しすぎる。

 パーティーの誰もがそう思っていた。

 

 ロディはラーズの積極性を好ましく思うも、ここでは冷静な判断をする。

 当初予定を無視はしない。

「『貫通』の恩寵はやっぱり強いな」

「竜をも貫く、とか言っても良さそうだな」

 簡単にラーズの機嫌は直り、仲間たちは無事、帰還の途に就いたのだった。

 

 古代竜の肉体は、全てが素材となる。

 それを運搬し、売却し、同時に装備も修繕。

 少し時間がかかるとロディは判断している。

 合理的な判断であり、ラーズとしても理解は出来るのだ。

 だが正しいからといって、気分まで納得するわけではなかった。




 竜殺し。

 英雄の証明の一つである。

 巨大な牙の提出により、迷宮都市ザイロスは興奮に沸いた。

 だがロディは既に、次の攻略の計画を練っている。

「大変ですね」

「書類仕事が出来る人間は少ないしな」

 ロディとクリスはこういう、裏方の事務をする。

 特にクリスの持つ加護と恩寵は、本来こういうことに向いている。

 ギルドとの折衝のための計画書、また購入物資の在庫状況、市場での素材の取引額の調査に、ギルドへの今回の探索の報告。

 他のパーティーではやらないのではなく、出来ないことをやっているから、一番攻略が速いのだ。


 いよいよ迷宮の攻略達成が現実的になっている。

 優秀なメンバーが揃ったことにより、偉大な伝説が達成される。

 まだ若いパーティーだが、その実力は随一。

『竜の咆哮』という名前に、負けていないパーティーだ。

 迷宮を完全に攻略すれば、そしてその先はどうするか。

 まずは勝利してから、それは考えるべきであろう。


 だが事態は急変する。

「どういうことだ?」

「だからクリスを外してくれっていうことだ」

 リーダーであるロディに、前衛の戦士であるラーズは再度告げる。

「いや、意味は分かるが、理由を聞いているんだ」

「前から言っていただろう? 今のクリスには役割がない」

「そんなことはない」

「いや……そりゃ物資の整理とか交渉とか、そういうのは認める。だけど斥候はセレンの魔法の方がいいだろ?」

 ラーズの言葉に頷くパーティーメンバーたち。分かっていなかった。


 七人組のパーティーである竜の咆哮。

 拠点としている屋敷で、クリスとセレンは席を外している。

 だからこそこんな話題が、まかり通っているのだ。

(口では勝てないからなあ。しかし……)

 根回ししていたのか。

 ラーズは馬鹿であるが、死ぬほどの馬鹿ではないのは分かっている。

 今回はそれが、悪い方向に働いている。

「セレンには?」

「言ってない。自分が原因でメンバーが抜けるなら、責任を感じるだろ」

 それだけではないだろうが、理由の一つにはなる。


 ロディは仲間たちを視線で探る。

(なるほど)

 観察力や洞察力が高い、などとはよく言われる。

 だがこれは単純に、ロディが生まれつき持っている加護だ。

(ラーズだけじゃなく、それなりに思うところはあるってことか)

 ロディはそれを『理解』した。

 それが彼の加護である。


 ここで道理での説得は悪手だ。

 ロディはわずかに考えて、機会を作ることにした。

「今は竜の素材や武具の修復で忙しいから、クリスに告げるのは少し後になるな」

「お、分かってくれたか。まあ、お前の女を安全地帯に置くんだ。悪い提案じゃないだろ」

「別に俺の女ではないんだけどな」

 気の短いラーズが、どれだけ我慢できるか。

「次の探索には半月はかかるし、一週間はクリスの手がいるぞ」

「何も慰労金も渡さず放り出せとは言わないさ」

「……分かった」

 このパーティーを『最適化』するための選択を探る。

「クリスとは俺が話す」

 それがリーダーの役目であろう。




「というわけで、馬鹿なことを言ってきたんだが」

「馬鹿ですけど、この場合は正しいですね」

 幼馴染の二人だが、上下関係はある。

 探査の最中であると、そんなことも忘れるのだが。

「正しいか?」

「戦闘力の低いメンバーは、迷宮主との戦闘では足手まといですから」

「それだけならな」

 

 主君の息子と家臣の娘。

 だがお互いに信用でき、能力も知っている。

 それを見せてこなかったから、今回のようなことになった。

「どうしますか? しばらく私が外れて、馬鹿に仕事をさせてみますか?」

「いや、それは俺が大変だ」

 クリスも辛辣であったが、ロディも訂正はしない。

「それとセレンの話も聞いてみた」

「彼女はなんと?」

「そもそもずっとこの街にいるわけでもない、と」

「ああ……」

 ラーズはそのあたり、本当に緩いところがある。


 新しく入ったメンバーであり、その若さからは信じられないほど、器用に魔法を使いこなすセレン。

 元は一時的にパーティーに所属するだけで、それを手配したのもロディであった。

 だからラーズは知らない。

 竜の咆哮に入りたがっている冒険者は、いくらでもいるのだ。

 セレンもロディが認めた、パーティーに相応しい人間であると誤解した。

(説明が不足していたな)

 役割分担の見えていない部分が、ラーズには本当に見えていなかった。

 これはロディの失敗である。


 失敗は正す必要がある。

 だがラーズにクリスの重要性を示して、それからどうするのか。

(結局は役割が見えていなかったことが、原因ではあるんだが)

 ラーズは単純なところもあるので、分かれば非を認めるであろう。

 しかしそこで、ロディは引っかかるのだ。

「クリスティーナ」

「はい、ロドリック様」

 お互いに本名を呼び合う時は、まさに主と家臣となる。

「俺は停滞してると思うか?」

「迷宮の解放まではあと一歩です」

「そういうことではなく、分かっているだろう?」

「……当初の予定では、もう少し早いタイミングだったはずですね」

「結局は俺も、先に延ばしていただけだ」

「それは」

 クリスの言葉を制止する。


 リーダーがしなければいけないこと。

 色々とあるだろうが、基本的に目的の設定と、決断がそうである。

 だからここは、自分から言うべきなのだ。

「準備は整っていたからな」

 それも全て自分とクリスでやってきた。

 だからなんとなく、疎外感などを覚えさせて、それが今回のきっかけになった可能性すらある。

 今が、決断の時だ。




 竜の素材の処理が完了した。

 迷宮の奥にまで、三度の往来が必要であった。

 素材が素材であるので、とにかく金は入ってくる。

 同時に迷宮の深奥に至るまで、当然ながら魔物を討伐していく。


 この探索において、変わったことが一つある。

 クリスを事務や交渉のため、実際にパーティーから外した。

 当然ながら、彼女のやっていたことを、他のメンバーで分担した。

 結果、七人が集まったこの部屋には、なんとも言い難い雰囲気が満ちている。


 ロディは説得もした。

 だが一番いいのは、実際にクリスを外すとどうなるか、体験させることである。

(戦争も戦闘より、準備の方がずっと時間はかかるからなあ)

 それを理解してくれたようで、とても嬉しい。

 誰もが迷宮を深く潜るのに、何が重要か実感していなかった。

 おそらく知識としてだけは、知っていたのであろう。


「さて、今後の方針なんだが」

「その前に」

 手を上げたのは、一番言い出しやすいセレンであった。

「やっぱりクリスにも同行してほしい」

 この言葉は、他のパーティーメンバーを沈黙させる。

 何も知らないセレンだけが、怪訝な表情をしたが。


 そしてロディも言葉を発する。

「俺からも、方針の転換を考えていてな」

 メンバーを見渡し、そしてクリスが頷いた。

「パーティーを、クランに拡大しようと思う」

 この言葉に、メンバーの視線が集中する。

「クランって、この街にはないぞ……」

 ラーズの言葉の通りである。

「だからこそこの街の迷宮を、俺たちが主導して管理するんだ」

 伝わった声が理解されるまでには、少しの時間がかかった。

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