35.トップ団長の末路
全てを無に帰す絶対零度の冷気。
万物を燃やし尽くす灼熱の業炎。
俺とトップはお互いの手を握り潰す勢いで睨み合っていた。
「トップ……、もう一度聞くぞ……!
俺が……いつお前の邪魔をしたんだ……?」
「俺はな……、お前が現れるまでは魔王のプラン完遂のための最重要ピースとして期待されてたんだよ……!
なのに!魔王はその役目を……、何も知らねぇお前に託しやがったんだ……!」
「魔王のプランが何なのかは知らねぇけどな……、そんな事で子供まで巻き込んで俺を貶めたのか……!」
「あのガキな……、野生のゴブリンのガキなんだけどよ、俺はお前を追放させるためなら理由は何でもよかったんだ……!」
「たまたま見つけただけって事かよ……!クズがっ!
お前の個人的な恨みだけで、どうして子供を巻き込めるんだよ!!」
「うるせぇ!
現代だけの話じゃねぇんだよ! 千年前でもだ!」
「あぁ、あの冤罪事件、真犯人はお前なんだってな……。
聞かせてくれよ……、俺がお前の代わりに死刑になるほどの何をしたってんだよっ!」
「俺は……父親から継いだスマホメーカーを、世界トップの会社にするよう期待されてたんだ……。
お前、親の経営してるスマホの会社に次期社長候補で入社したよな……?
それからなんだよっ、俺の会社の経営が傾き出したのは……!」
「あのなぁ……、さっきから魔王の期待とか父親の期待とかってよ……、お前の価値はそれだけなのか……⁉︎」
「あぁ、俺はそうやって育てられてきたんだよ!
人間は誰かの期待に応える事以外に存在意義があるのかっ⁉︎
だから俺はそのために、邪魔なお前に濡れ衣を着せた! 俺のトリックは完璧だった!
……だがお前の親父がトリックを暴いて俺を処刑台に送ったんだよ!
クソが……。 アイツは俺を怒らせた。
俺は刑務所の中から部下に命令をしたんだ。一家心中に見せかけて殺せってな。
そうすりゃアイツの会社の株は大暴落だ!
ざまぁねぇぜ!フハハハッ!」
それを聞いた俺は、トップの手を粉砕する勢いで更に強く握り込んだ。
「そういう事か……、父さんとヒカリを殺したのも、貴様だったのか! トップ!!
だがな……、俺の中には父さんが、母さんの中にはヒカリが今も生きている!
そして、この時代でも仲間ができて、そいつらが後ろで俺の勝利を待ってんだよ……!
こんなところじゃ……、終われねぇぇぇぇ!!!」
一瞬でも気を抜けば、魂ごと焼き尽くされる……!
それは分かってるが、限界だ……、意識が……。
その時、後ろからミズナの声が聞こえた。
「コウーッ!! コウなら絶対に勝てるのよっ!」
俺はその声で飛びかけていた意識を取り戻した。
「うおおおぉぉぉぉ!!!」
俺の叫びと同時に、両手から放たれる冷気の勢いが、爆発的に増大した。
それはもはや、単なる冷気ではない。
触れたものの分子運動を停止させる、死の奔流だ。
「ば、馬鹿な……!
俺のヴォルケーノ・ヘルが……消されるだと……!」
いつも余裕なトップが苦悶の表情を露わにした。
俺の魔力はトップの手を、腕を、胴体を、……次々とその分子運動を停止させた。
「コウッ……!貴様は俺の……!」
トップはそう言い残して、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
それを見届けてから、俺も後ろに倒れた。
◇
なんだ……、意識の中で……何か聞こえる……。
「……ウっ! ……コウっ! 目を開け……のよ!
必ず帰って……って約束……のよ!」
「ん……、ミズナ……か?」
目を開けると、俺はミズナの柔らかい太ももで膝枕をされていた。
奥に見える校舎はすっかり焼け焦げていた。
「コウっ! しっかりするのよっ!
急に後ろに倒れたから、アタシが受け止めに来たのよ……!」
「そっか……、ありがとうな。ミズナ……。
それより……、アリエッテは無事なのか……?」
「今、ヒルクが見に行ってくれてるのよ……。
でも……、あの豪炎の中じゃ……、うぅ……」
「まだ……、わからないぜ。
俺にも出来ることがないか見てくる……!」
「コウッ!これ以上は無理しないで欲しいのよっ!」
「俺は大丈夫だ……! ありがとうな」
そう言い残して俺はアリエッテの元へ向かった。
が、その足取りは誰が見ても大丈夫ではなかっただろう……。
ミズナにはああ言ったが、俺も内心ではアリエッテは助からないとは思ってる……。
だが、俺が弱気な姿は見せられないんだ。
前にそう学んだんだ……!
アリエッテがいた場所に近づくと、真っ黒に焦げている遺体が二つ見えた。
おそらくアネモネとアリエッテの親子だろう。
………そん……なぁ……あぁ……。
ヒルクもその近くで声にならない悲鳴を上げているようだった。
俺は気が狂い、あるはずもないアリエッテの脈を取ろうと思って手で触れた。
パリッ……パリパリッ……。
「……えっ?」
俺は泣きながら情けない声を漏らしてしまった。
それは真っ黒に焦げているが、アネモネの翅だった。
それに触れた瞬間、パリパリッと音を立てて翅は崩壊し、その中にアリエッテがいた。
「アリエッテッ!! お前、生きてるのかっ⁉︎」
おそらく、アネモネは死の間際に翅を再生させて、母親としてアリエッテをくるんで守り切ったのだ。
「コ……、コウさん……。
アリィ、凄く……熱いで〜す……」
「待ってろ! 今すぐ冷やしてやる!」
俺の魔力はさっきの戦いでとっくに限界を超えていたが、仲間を助けるためなら限界のさらに先へ行くことができた。
「あっ……、ひんやりして、気持ち……いいで〜す……」
「良かった……。 生きててくれて、本当に……」
こうして俺は、誰一人として仲間を失う事なくトップに復讐を果たした。
俺は……、俺たちはやり遂げたんだ……!
勝利を噛み締め、俺はその場に大の字で倒れ込んだ。
季節は冬だが、暖かな日差しが俺を包んだ。
◇
あの後、俺はミズナと母さんの肩を借りてエスポワールに戻ってきたみたいだ。
というのも、あのまま疲れて寝てしまったのだ。
横転していたエスポワール号をヒルクとユータンが起こしてくれた音で目が覚めた。
「相棒、しばらく中で休んでろ。
と、言いたいところだが、ちょっと相談があるんだ。
少し二人で話せるか?」
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