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3. 尊き方々のロンド

予約投稿を使ってみます。不備ありましたらお許しください。

短いインターミッションです。


 スザンヌは分からなかった。


 せっかくルベールたちの輪に入れたのに、シャロンと話す機会がない理由。シャロンを気にしていると、決まってルベールがスザンヌを引き留め、妙に抑えた声で別の場所に行こうと誘う理由。あんなにきらめいていたシャロンが俯きがちになり、言葉を飲み込むような顔ばかりするようになった理由。ルベールとスザンヌに親切にしてくれるクラスメイトたちが、なんだか奇妙な笑い方をする理由。


 スザンヌは分からなかったけれど、物心がついてからずっと分からないということ自体が彼女の日常だったので、そのままにして過ごしていた。


 楽しかった。

 ルベールが王子様の役をしたので、スザンヌはお姫様の役になれたのだ。

 彼女は本当に美人で、困ったら微笑む癖があったため、その笑顔を向けられてクラスの生徒は男子だけでなく女子までうっとりした顔をした。少し気の強そうなきりっとした目鼻立ちに反して誰かを悪く言うことのない鼻に引っ掛かるような甘い声はギャップも加わって人を魅了し、ルベールに出会って明るく快活に笑い声を上げることも増えれば彼女がいるだけで教室に花が飾られたかのように彩りとなった。


 周りに人が増えると、うまく言い終わらないスザンヌの言葉は勝手に好意的に解釈されるようになった。彼女のことならなんでも肯定するルベールの態度が周囲へ感染したのもあるだろう。


(私、お姫様みたいだわ)


 皆が輪に入れてくれる。

 皆がスザンヌに笑いかけてくれる。もてはやし、言葉をかけてくれて、追い出さない。


 自分の学年で交流を広めるように。

 ――はい、エデュアール様。


 お友達は良いものよ、スザンヌ。

 ――はい、お母さま。


 尊き方々は、誤ったことはおっしゃいません。

 ――はい、先生。


 彼らは本当に正しい人々だ。皆尊い人々だ。言う通りにしていれば間違いがない。うまくいかなかったらスザンヌが言う通りにできていないからだ。こんなにうまくいったのは、スザンヌが生まれて初めて、彼らの言う通りにきちんとできたからに違いない。


 そして今回のこの幸運は、ルベールが持ってきてくれた。


 感謝を込めてスザンヌはルベールを見つめる。


 ルベールを思うとどれだけ感謝しても足りなくて、瞳は潤んで、熱っぽくなった。そうやって見つめるとルベールはなお一層の熱意で見つめ返してくれて、世界の光の中心までスザンヌの手を引いてくれる。


「ロシェ様には婚約者がいるのでしょう?」


 何度か、ばらばらの相手からそんな言葉をかけられることがあった。


 習ったとおり、スザンヌは「ええ」と答える。


 そのまま黙って待つと、相手は大抵困惑した顔をする。スザンヌも困っていたので微笑んでいた。それだけで去っていくこともあったし、周りが「あの方よ」とか「ロシェ様にはお子様すぎるのかしら」とか色々な補足を加えてくれることもあった。


 シャロンとルベールの両方がシャロンからスザンヌを遠ざけたので、自分はシャロンに近付かない方が良いのだろうということはなんとなく分かってきて、シャロンのいるところではルベールや他の令息たちとあまり会話しないようにした。

 そうするとルベールはうまくできたスザンヌへご褒美を与えるように二人だけの時間を設けて他の人がいるところよりも熱烈な言葉を重ねてくれた。彼がよく手に触れるのでスザンヌは学園でずっと手袋をつけるようになった。手袋を脱いではいけないと先に言いつけた母親はやっぱり正しい。


「手袋が好きなの?」

「たぶん」

「なんだそれ」


 楽しそうにルベールが笑う。彼は「分からない」というどっちつかずの返事でも叱らず聞いてくれると知ってから、スザンヌは本当に息がしやすかった。


「手袋をしていれば、ルベール様のお手に触っても大丈夫だから……」


 言えばルベールがはっと息を呑む。

 強くスザンヌを見つめるその双眸には愛おしさと暴力性と罪悪感と陶酔と様々なものが過剰に入り乱れて、刹那の間ぎらりと刃物のように光った。


 多少剣術を嗜んだことのある、それでも綺麗な男の子の手が、ゆるくスザンヌの手の甲を触れる。

 どきどきと鼓動が速くなる。


「僕らには、婚約者がいる」


 返事が必要だったので、ええ、とスザンヌは答えた。


「一緒にいられるのは学生の間だけだ」


 ええ、ルベール様。


「様はいらない。二人だけの時はルベールと呼んで」


 はい。


 分かったわ……、ルベール。


「手袋を贈るよ」


 布の上からの感触と、熱いルベールの声と視線を浴びて、スザンヌの思考が溶け落ちるかのように崩れていく。


「僕らがいつも手を繋げるように。手を触れていない時も、君が僕の手を感じてくれているように」


 持ち上げて、手袋越しに、指先へのキスを落とす。


「受け取ってくれるね、スザンヌ?」


 ええ、ルベール。


「嬉しい?」


 嬉しいわ。


「……好きだよ」


 それからスザンヌへはルベールからの贈り物が様々に形を変えて与えられるようになった。

 手に触れない代わりに手袋を、頬に触れる代わりにスカーフを、キスの代わりに宝石の光るイヤリングを、跪く代わりに鏡のように磨かれた流行りの靴を。


 贈り物のひとつひとつに季節の花が添えられていて、必ずしも家格ほど裕福ではない彼女の家の自室はその頃から年相応に華やいだ様子になって、そのことも、スザンヌは服飾品と同じくらい嬉しかった。


 婚約者のエデュアールの贈り物は教育のために通っているシュフォルバルの別邸に専用の部屋を与えられて保管していたし、誕生日以外に花をもらったこともなかったので。


 二人とシャロンはもうすぐ二年になろうとしていた。






ルベールは色香溢れるスザンヌには服飾品を、幼く見えていたシャロンには菓子と花束を中心にプレゼントしていました。(後にアレンから嫌味を言われます)

スザンヌへの贈り物に添えられた花はシャロンへの物と違って束ではなく一本だけを薄紙でくるんだ簡素なものが多かったのですが、スザンヌはそれを部屋に大切に飾っていました。

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