表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/145

壱ノ玖 二人の旅立ち

 翌朝、まだ白みがかった空のもと、おじいさんとおばあさんからいくらかの弁当をもらい、フェノエレーゼは旅立ちました。


 懐にはヒナが回収したものとフェノエレーゼのもとに残った羽で作った扇があります。

 ほんの六枚とはいえ、もともとフェノエレーゼの妖力の欠片。

 突風を起こすくらいのことならできます。


「それじゃあ笛之さん、ヒナのことをよろしく頼みます」


「ああ」


 おじいさんとおばあさんは深々頭を下げます。

 そっけない返事をするフェノエレーゼの後ろを、ちょこちょこと小走りでヒナが追いかけます。


「おじいちゃん、おばあちゃん、いってきまーす!」


 いつまたここに戻るかもわからないのに、ヒナは無邪気に笑っておじいさんとおばあさん、そして見送りに来た村人たちに手を振ります。


 ヒナの家の方から、丸くて茶色い毛玉が飛んできました。


「チチチチ」


「あ、雀ちゃんだ! あなたも行くの?」


『チッチッチッ。まってーなー。旦那、あっしも連れていってくださいな。このあたりの山はあっしの庭も同然。お役にたちますよって』


「いらん」


『そんなつれないこと言わないでくださいよ。旅は道連れ世は情けねぇっ。あっしが道連れなら人間から情けをかけてもらえるという、とうとい言葉でさ!』


「私の目線より高く飛べないくせによくそんな大層なことを言えたな」


 ついていく気満々の雀は、フェノエレーゼが来るなと言っているのに、フェノエレーゼの肩に着地してふんぞり返ります。


 ヒナにはこの雀のセリフの数々は『チチチチ』にしか聞こえていません。

 実体を知らない方が幸せかもしれません。

 ヒナは羨ましそうに目を輝かせて、フェノエレーゼのまわりを跳ねます。


「いいなー、フエノさんは雀ちゃんとお話できるの? 雀さんなんて言ってる?」


「自分が情けないとさ」


「へー。ところで、なさけってなに? お酒のいっしゅかしら」


 説明するのが面倒なので、フェノエレーゼは聞こえないふりをしました。

 わざと話を変えて伝達するフェノエレーゼに、雀が翼を目元にやって泣きだします。


『チチチチ、違いまさーー! 話をきいていやせんでしたね、旦那! あっしは……』


「やかましい! くそ、同行の願いなど聞き入れなければ良かった」


『そんなせっしょうなーー!』


 そんなやり取りを話している間に、村はだんだんと小さくなり、やがて朝もやの向こうに消えていきました。




 なんとも賑やかな一人と一羽を連れて、フェノエレーゼの長い旅はここからはじまったのです。







 天狗ノ章 了

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ