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壱ノ肆 失って知る寂しさ

 ようやく村人たちが落ち着きを取り戻したころ、フェノエレーゼはヒナの家にお邪魔することになりました。


 床は所々染みができています。


 フェノエレーゼが下駄のままあがろうとして、ヒナが慌てて止めます。


「フエノさん、はきものはここで脱ぐのよ」


「ふうん。人間は面倒なことをするのだな」


 フェノエレーゼはヒナがやったのを見て、真似ながら下駄を脱いで、家にあがりました。


 目の前では四角く切り取られた床の穴に灰がたまっていて、炭が赤く燃えています。ヒナが「これはいろりなのよ」と大人ぶって説明します。


 おじいさんはあぐらをかいて長い棒で灰をつつきます。


「そいで、笛之さんは何でこんな辺鄙(へんぴ)な村に? 旅人、にしては身綺麗だのう。都の貴族様が供もなしにこんなところに来るわけもないし」


「さっきも話しただろう。私は天狗だ」


「……そう言われてもなぁ。言い伝えじゃ天狗ってのは翼が生えていて人間を襲う妖怪って話でねぇか。あんた、色は変わっとるがどうみても人間じゃろう」


 おばあさんもおじいさんと同じように、フェノエレーゼが天狗だという話を疑ります。

 翼を封じられ妖力もない今、フェノエレーゼを妖怪たらしめるものは人間ではあり得ない髪と瞳の色だけです。


 信じてもらえない上に「変わった色の人」の一言で片付けられ、フェノエレーゼは唇をかみました。


「そうか。ならもういい。一晩だけここに泊まらせてくれ。明日にはその都とやらに向けて発つ」


 おじいさん、おばあさん、フェノエレーゼ。

 三人が黙ってしまい、ヒナが身を乗り出して手を上げます。


「あのねおじいちゃん。フエノさんは良いことをすると天狗になれるんだって。私、空を飛びたいからフエノさんが天狗になれるようお手伝いしようかと思って」


「ヒナ。お前みたいなこどもが旅に出て役に立てるわけないじゃろ。バカなこと言ってないでさっさと寝ろ」


「むむうう。つまり、わたしが旅で役に立てるとわかったらついていっていいわけね! シレンをのりこえるのって旅らしくていいわね」


 そんなことは一言も言っていません。

 行くなと遠回しに言われている事なんて、ヒナには全く伝わっていないようです。


 どうせ興味がコロコロ変わるこどものこと。明日には今日のことを忘れて、庭に来る雀と会話に興じるにきまっている。


 おじいさんはそう考えて「勝手にすれ」といって、そうそうに部屋に引き上げました。


 話し合いはそこでお開きになり、フェノエレーゼは用意されたぺたんこの布団に寝そべりました。


 ふくろうの鳴き声、狼の遠吠えしか聞こえないような静かな夜。


 昨夜までは夜空を悠々と飛び回っていたのに、今は一瞬たりとも宙に浮くことができないのです。


 翼をなくし、妖力を使えなくなり、人間とほとんど変わらなくなってしまいました。


 空を舞えることが当たり前。飛べなくなるなんて考えたことはありませんでした。


 これが『寂しい』という気持ちだと、今のフェノエレーゼにはわかりません。


 袂に入れていた、残された羽を握りしめ、フェノエレーゼはきつく目を閉じました。

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