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壱ノ参 お供します。

「じゃあ、じゃあ、畑を嵐が来る前のじょうたいにもどして」


「却下」


「じゃあ、お洗濯できるようになりたい」


「却下」


 日がだいぶ高くなった頃、ヒナはまだ交渉(?)を続けていました。

 却下が口ぐせなのかと思うほど、フェノエレーゼは片っ端からヒナの提案を却下し続けておりました。

 だんだんお願い事も思いつかなくなってきて、ヒナは困り果ててしまいます。


「困ったわ。あれもダメ、これもダメ。うーん……そうだ! わたし、フエノさんが天狗に戻れるお手伝いをする! それなら良いでしょ?」


「良くない! 手伝いなどいらん! おい、聞いているのか!」

 

 フェノエレーゼがまだ何か言おうとしていたけれど、ヒナはフェノエレーゼの袂をつかみ、意気揚々と村への道を急ぎます。


「そうと決まれば旅の支度をしなきゃ。おじいちゃんとおばあちゃんにいってきますって言うの。フエノさん、天狗になるためには何日かかるの?」


「知らん。そんなの私の方が知りたい」


「つまり答えのない旅というやつね。おとなって大変なのね」


 フェノエレーゼは深々ため息をついて、それ以上何も言いません。ヒナはフェノエレーゼを引っ張ったまま村にたどり着きました。




 小屋と呼んで差し支えない小さな木造の家が六軒ほど、点々と建つだけの場所。

 縁の下の隙間からタヌキの親子が顔を出します。


 村外れの畑は半分以上が嵐でめちゃくちゃになっていました。大人たちは今も食べられそうなものを選んでしゅうかくにいそしんでいます。

 フェノエレーゼが物珍しそうに畑のみんなを指差して聞きました。


「あれは何をしている」


「お野菜のしゅうかくよ。フエノさんもごはん食べるのに何か育てるでしょ?」


「私は(あやかし)。そんなことしない。食い物なんてそこらに()っている木の実で十分だろ」


 ヒナなら木の実だけじゃおなかがすいてしまうのに。

 きっと都の人はショウショクなんだ。ヒナは一人でなっとくしました。


 畑に走ると、おじいさんたちが折れた泥んこのだいこんをかごに入れ、拳で腰を叩いていました。


「ああ、このままじゃあ村は終わりだ。山神様がお怒りなのかもしれんなぁ」


「んだ。おやしろに貢ぎもんば増やさねぇといけんかもしれんな」


 なんだか難しい話をしているようだけど、ヒナはとにかく旅に出る許可が欲しくて、おじいさんの背中に飛び乗りました。


「ただいま! おじいちゃん、おばあちゃん! あのね、あのね、フエノさんが天狗になって飛べるようにお手伝いしたいの。だから旅に出るわ!」


 頑張って説明しているのに、おじいさんとおばあさんだけでなく、村人みんな、苦い薬を飲んだみたいな表情をしています。


「なんだい、ヒナ。帰ってくるなり旅って。それに、そちらの方は……?」


 まだフェノエレーゼのことを紹介してなかったことを思い出し、ヒナは後ろにいたフェノエレーゼの袖を引いてみんなの前に連れてきます。


「このひとは、さっき空から落ちてきたの。への……へのえ、れ……」


 まともに言えないヒナにかわって、フェノエレーゼ本人が仕方なしに口を開きました。 


「私は笛之。そこの小娘では話にならん。不本意だがそなたたちに話を聞いてもらおうか」


 

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