参ノ壱 一難去ってまた一難
桜の村を発った三日後。
フェノエレーゼたちは、またまた危機に陥っていました。
「うあああぁん! いのししさん、わたしたちは食べても美味しくないようーー!」
『たすけてっすーーーー!!』
「お前ら四の五の言わず走れ! 特に雀、お前が元凶なんだから囮にでもなってあいつの気をそらしてこい!」
『チチチ!? そんなせっしょうな、あっしは旨そうな匂いのもとをたどっただけっさーーーー!』
地鳴りが起きるほどの足音を立てながら、大猪が一行の背後に迫っていました。鼻息も荒くなっていて、いのししの言葉はわからないけれど相当怒っていることだけはわかります。
こうなった発端は、雀でした。
今朝弁当が尽きて、雀はそのへんの草むらにいる虫でも足りず、雀は食べ物を求めてどこかに飛んでいきました。
いのししのねぐらに飛び込んで餌を失敬し、たまたまねぐらのにいた主がこの大猪でした。
まともに整備されていない山道、しかもフェノエレーゼにいたっては履いているのは下駄。走りにくいことこの上ありません。
何度も転びそうになりながら、ひたすら足を動かします。
「あああっ! ふ、フエノさん、前あぶないよ、前!! あれなに!?」
「なんだ騒々し…………」
後ろを気にして走っていたフェノエレーゼは、ヒナの指す前方に気づいて言葉を失います。
目の前に道がありませんでした。
道どころか、地面がないのです。
森が途切れたその先は、崖。そして崖の下に海が見えました。
海沿いの砂浜の近くに目指している村が見えます。
「海か」
「うううう、海? これが?」
ヒナにとって生まれて初めて見る海、この状況でさえなければ感動できたことでしょう。
今は感動するどころか、逃げ場がなくなった恐怖しかありません。
ーーブモモモオオオ!!
立ち止まっている間に、もういのししはそこまで来ていました。
ざっと見おろした崖の高さはヒナがめまいを覚えるほど。
「行くぞ」
「えええええ、いくって、まさか」
「いのししに押し潰されたくはないだろう。迷っている暇はない。来い」
『待ってくださいよ旦那あああ!』
あまりの高さに怯えるヒナを抱え、フェノエレーゼは崖下の海めがけて地を蹴ります。
「ひああぁうあーーーー!! 死んじゃうううーーーー」
大きな水柱を立てて、フェノエレーゼたちは真っ青な海に沈みます。
がぼあばばばぼうぇあ。
卯月のはじめなので、海は雪解け水が流れ込み、水がとっても冷たいのです。
辺りを泳いでいた稚魚の群れが、ヒナがあがいて起こる水流に驚いて遠ざかっていきます。
さらに追い討ちをかけるように、海中で何か魚とは違う生き物が泳いでくるのが見えました。
金色の瞳は大人の頭ほどの大きさで、額から牡鹿のような角が二本生えています。
山にいる蛇のように長い体だけど、蛇よりもずっと太くて長い。
体は白く輝く透明な鱗におおわれていて、体の途中に蛇にはない鉤爪があります。
それは龍と呼ばれるあやかしでした。
龍はぐんぐん近づいてきて、フェノエレーゼとヒナの前で、牙がずらりと並ぶ大きな口を開きました。




