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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
弐 桜木精ノ章
15/145

弐ノ伍 枯れかけの桜

 桜の花びらが舞う村は藁葺き屋根の家が数軒点在していて、ヒナのいた村より若者も多く、いくらか活気があるように見えます。


 近くの家の縁側でひなたぼっこしていたおばあさんと、背の低いおばさんがフェノエレーゼたちに挨拶してきました。


「こんにちは。小さい子をつれた旅人とは珍しいねぇ。お嬢ちゃん、あの橋を渡って来るのは大変だったろう」


「うん。ぐらぐらしてこわかった!」


 ものおじしないヒナは、にこにこ笑っておばさんに答えます。おばあさんは無表情を貫いているフェノエレーゼを見て、何度もまばたきします。


「あんた、まだ若いのに白髪なのかぇ。おらより白いなんて、どんげな苦労したんが。都にはあんたみたいな人もおるんかい?」


「たぶんな。そんなことどうでもいいが、ばあさん。この村に泊まれるところはないか」


 ここが妖怪退治を依頼した村なら、自分が天狗だとばれたらろくなことが無さそうだと思い、フェノエレーゼは話をあわせました。


「ここに宿はないんでの、おらん家でよけりゃぁ泊まっていきなされ。わしと娘夫婦しかおらんでの、部屋はたぁんと余っておる」


「ほんと? わぁい。おばあさん、ありがとう!」


『めしめしめしめしー!』


 ヒナが跳ねて喜びます。雀も、飯にありつけるとわかり陽気に歌います。


「あんたら、ここに来る途中、こってぇ古い橋があったじゃろ? 落ちたらあぶねぇすけ、あの木を伐って新しい橋を作ろうってことになったんじゃよ。なのに、悪いことばかり起こりおる」


「なんぞたたりか、悪い妖怪でも憑いとるんじゃないかって、村長が祓い人を呼んだんよ。なのに、来たのは頼りなさそうな男の子でねえ」


 おばさんが指差した先、谷の対岸に大きな大きな桜の木がありました。

 枝が大きくのび、谷を越えて村まで届きそうなほど。けれど花の一輪どころか葉の一枚もついていません。


 それが桜の木だとわかったのは、村にも桜があったからです。

 村の中に生える桜は対岸の木より小さい。それでもたくさんの花をつけて、今もフェノエレーゼとヒナの上に花びらの雨を降らせています。


「あの桜は花が咲かないのか?」


「そうさなぁ。ここ五年は、まともに花をつけん。だからもうだぁれもあすこにいって花見をせんのじゃよ。昔は、ばかきれいな花が咲いてたんだ」


 おばあさんの話を聞き、ヒナは谷のギリギリまで行って、太い枝を興味深く見つめます。


「おばあさん、おばさん。わたし、あの桜の花見てみたい。本当にもう咲かないの? もしかしたら明日咲くかもしれないわ。伐っちゃかわいそうよ」


 おばあさんが深くため息をついて首を横にふると、ヒナはフェノエレーゼに聞きました。


「フエノさんは、わかる? あの桜、ちゃんと咲くよね? だってあんなに大きくてきれいなんだもの」


「さあな……ちょっと出てくる。明日までには戻る。お前たちはばあさんのところにいろ。着いてくるなよ」


 言いおいて、フェノエレーゼは来た道を戻ります。理由がわからず、ヒナも雀も慌てます。


「えええ! フエノさん、もうすぐ日がくれるのにどこ行くの?」


『チチチチ。どうするつもりです、旦那ぁ』


 フェノエレーゼには見えていました。そしてきっと、同じく妖怪である雀にも。


 村人が妖怪退治を依頼し、伐ろうとしている桜には、桜木精(さくらぎのせい)が宿っていたのです。


 宿った精を祓えば、木は今度こそ枯れてしまう。

 祓いの儀式が行われる前にナギを止める。

 そのためにフェノエレーゼはいそぎました。


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