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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
結 㤅ノ章(アイノショウ)
143/145

拾参ノ捌 はじまりの約束

 強い風が吹き荒れました。

 落ちるナギとヒナを持ち上げるくらいの強い風。

 真っ白な両手が伸ばされ、ナギとヒナを支えました。


「ヒナ! ナギ!」


「フェノエレーゼ、さん」


 ナギの前に、本物の翼で羽ばたくフェノエレーゼの姿がありました。雪よりも白く、汚れのない翼にナギは目を奪われます。

 術で作ったかりそめの翼とは比にならないほど美しい。


 ゆっくり谷底に向かって飛びながら、フェノエレーゼは聞きます。


「戻るのが遅くなってすまない。怪我は」


「ありません。ヒナさんも無事です。ありがとう、フェノエレーゼさん」


「礼などいらん。いったんおろすぞ。お前の式神たちがまだ上にいるだろう。連れてこないと」


 オーサキたちのことも気にかけてもらって、ナギは胸があたたかくなります。


 谷底には緑が茂っていて、清水が湧き出ていました。水は低い方へ流れていて、徐々に幅が広がっていく。どこかの川の源流なのだとわかります。


 その清水のそばに二人をおろすと、フェノエレーゼはもらってきた薬をナギに渡しました。


「朝晩の二回、一粒ずつ飲ませろと、あいつが言っていた」


「はい。すぐに」


 いつもヒナが大事にしている竹の水筒に水を汲んで、ヒナの口に薬と一緒に含ませます。

 むせたけれど、きちんと丸薬を飲み込みました。

 ヒナは薄く目を開けて、ふわりと笑います。


「フエノさん、おにいさん」


「どうした、ヒナ」


 顔色はやはりあまりよくないものの、水と薬を飲んだからか、ヒナの容態はいくぶんマシになったように思います。


「羽が戻ったら、お空、約束。フエノさんがいつもみている地は、とても、きれいなのね」


 翼を取り戻したらヒナを抱えて空を飛ぶ。出会った日にヒナが言い出したお願いです。

 フェノエレーゼがほぼ忘れていたそれを、ヒナはずっと覚えていました。


 こんな目に遭わされても、人の住む大地はきれいだと言える。フェノエレーゼは呆れを通り越して感心してしまいます。


 家族と森を奪われた憎しみに染まっていたフェノエレーゼとは、心の根っこが違うのでしょう。


「ヒナさんはとても強いのですね」


「そうとも言えるのかもしれんな」


 ナギも、どうしてこんな目に遭わされないといけないのかと思うばかりで、景色がきれいだなんて思う余裕をなくしていました。


「さ、小者たちを連れてくるぞ。とくに雀は放置するとうるさそうだ」


「ふふっ。そうですね。お願いします。さすがにこの高さですし、村人たちも、谷底に落ちて生きているとは思わないでしょう。おそらくはこれ以上追っ手も来ないと思います」


「そう願いたいものだ」


 肩をすくめて、フェノエレーゼはまた、空に向かいます。

 ナギとヒナが落ちた崖の上は、すでに人が引き上げていました。茂みの中に、オーサキとタビと雀がいます。


『うっうっ。あの人間たち、もう行ったかしら。主様、主様。主様が行けと言うならあいつらに噛みついてやるのに』


『にゃ、あるじさま、かみつけって、言わなかったから』


『チチチ。それを言わないのが兄さんでさ~』


「おいお前ら、いつまでそこにうずくまっているつもりだ」


 ため息まじりにフェノエレーゼが声をかけると、オーサキたちはパッと顔を上げました。

 翼を取り戻したフェノエレーゼを見て、三者三様の反応をします。


『きゅい! あんたおそすぎんのよ! 主様とおちびちゃんが!』


『そうでさそうでさ! あとすこし早く戻ってこいでっさー!』


『にゃーーー!!』


「うるさい。あいつらなら無事だ」


 それを聞いた途端オーサキの態度がコロリと変わりました。


『きゅ~、それを早く言いなさいよ白いの! でかしたわ! さあ、あたしを主様のもとに連れていきなさい!』


「しばくぞ」


 タビを脇に抱え、雀とオーサキを肩に乗せて、ヒナとナギが待つ谷底に戻ります。

 再会できて感極まる式神たちとナギの対面。ヒナのもとに飛んで騒ぐ雀。


 大賑わいに、フェノエレーゼが「黙れ」と怒鳴るのもいつものこと。

 

 そのまま谷で夜を明かし、薬のおかげで、明け方にはヒナが起き上がれるようになりました。

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