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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
弐 桜木精ノ章
14/145

弐ノ肆 まがい物のあやかしもの

「ふぅ。あまり気が進むものではないですね……」


 ナギは林のなか、考え事をしながら歩を進めていました。

 先ほど会ったフエノという女性は、ナギが妖怪を退治する話をしたとたんに殺気にも似たものをナギに向けた。

 それが気がかりでした。


「妖怪が好きではない? それとも……ああ、なぜおれはそんなことを気にするんだ。らしくない」


 出発したときよりだいぶ日が高くなり、ナギは息をつきます。

 日の光は好きではない。

 ナギのうちなるものは闇夜に属するものゆえ、日中歩き回るのは得意ではありませんでした。

 布でおおわれたしたにある左腕は、日の元にいるなとうずきます。


「日の出ているうちに着ければいいけれど」


 目的地につくまでに日が落ちるなら、野宿して明け方に行くしかないでしょう。

 妖怪の力が優勢となる夜に妖怪を祓うのは危険でしかないのです。


 今回依頼のあった悪しき妖怪を始末し、功績をあげなければ師が笑い者にされてしまう。

 弟子が半端者なら師も半端者なのだろうと。

 それはナギにとっては耐え難い苦痛です。


 自分を拾い、導いてくれた師へ恩を返すためにも、此度(こたび)の妖怪祓いは成功させなければならないものでした。


 川沿いの桜並木の対岸には依頼主の村があります。

 村より川上にある橋は古く、山奥に向かうにもとても不便。だからここに近道となる橋を架ける。


 それが村人たちの望みでした。

 道が整えばこの先にある村も流通が盛んになり、潤うでしょう。


 桜を伐ろうとするたび、木こりたちは見えないなにかに邪魔され、樹に振り下ろそうとした斧は木こりたちを傷つける。

 これは妖怪の仕業だろうと、ナギの師に妖怪祓いの依頼がきたのです。


「人に害なす妖怪なれば仕方ない」


 そう、これは仕方ないこと。だから心を痛めてはいけない。

 自分に言い聞かせて一歩また一歩、ナギは歩きます。

 はらりと、ナギの左腕をおおっていた布がゆるんでほどける。


 そこから、血色の肌に黒い爪が鋭く尖る……人ならざる者の手が覗きました。


『ここでは見ない顔ダナ。オマエ、鬼のニオイがする』


 足元からか細い声が聞こえ、ナギは慌ててたもとの中に腕を隠しました。


 見れば一尺あるやなしやというほどのちいさな木の人形が二体いました。

 例えるなら手足の生えただるま。

 その生き物は透けていて、向こう側の木の根が見えます。


「……木霊(こだま)か。だいぶ弱っているようだが」


『よわりもする。前はもっといた。最近村のニンゲンがどんどん木を切っていル』


 木霊たちは誰を責めるでもなく、淡々と事実だけを口にしています。


『鬼。オマエ、ニンゲンと話せるなら止めてクレ』


『あれらにわれらのコエは届かぬ。姿もみえぬ』


 まさかその村の人間に妖怪退治を頼まれてここにいるとは、言えませんでした。

 ナギは袂で隠した腕をちらと見て唇をかみます。


「おれは……人間だ。鬼ではない」


『うそ。オマエ鬼。そういうニオイする。鬼ならニンゲン倒せる。あの村がなくなれば、きっと、ナカマもかえってクル』


「何度も言わせるな。おれは人間だ!」


 ナギが声を荒らげると、木霊たちは驚き、カサカサと枯れ葉を鳴らしてやぶのなかに隠れてしまいました。


 一人残されたナギはその場にうずくまり、木に背を預けます。

 木霊たちの言葉は真実……ナギは混血。父親は源 頼光に討たれた鬼です。


主様(あるじさま)、大丈夫ですか?』


「……大丈夫だ。心配するな」


 ナギの襟元に隠れていた式神が心配して声をかけてきます。

 自分に言い聞かせるように、ナギは繰り返し、繰り返し、呟くのでした。


「おれは人間だ。人間、なんだ」


挿絵(By みてみん)

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