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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
結 㤅ノ章(アイノショウ)
136/145

拾参ノ壱 三河での異変

 三河(みかわ)に入って数日。

 息が白むほど冷え込んだ師走の朝に、異変が起こりました。

 いつもなら誰より早く起きてくるヒナが、日が登りきる時間になっても起きないのです。


 ヒナは焚き火から少し離れたところで、膝を抱えるように丸くなって寝ています。フェノエレーゼは屈んで、ヒナの肩をゆすります。


「おいヒナ、いつまで寝ている」


『チチチチ。嬢ちゃん~、起きるっさ~!』


 雀が耳元で鳴いても目を閉じたまま。

 フェノエレーゼは、明け方まで火の番をしていたナギを起こしました。寝付いたところを起こすのは気が引けるけれど、ヒナの様子がおかしいと伝えると、ナギはすぐに起きました。


 ヒナの額に手を乗せ、顔を曇らせます。


「……熱が高い。どこかの集落で医師に診せて、解熱の薬湯をもらわないと」


 道中で助けた人からもらった厚手の衣を、いつもの着物の上から羽織ってあたたかくしていたのですが、それでも冷え込みには勝てなかったようです。


『きゅい~。ですが主様、この先にある村には近寄らないほうがよいと、お師匠さまから文をもらったばかりでございましょう』


『にゃー、ようかい、でていたところだから、だめと』


 ヒナを早く医師に診せるべきなのですが、オーサキの言うとおり、先日烏が運んできた師の文に書かれていたのです。


 ──そこは先日妖怪が出た地域だから近寄るな。すでに陰陽寮の者が退治したあとだが、被害に苦しんでいた村人たちの妖怪に対する風当たりは強い。


 記されていたのは、ナギも名前しか聞いたことのない種の妖怪です。


 ナギは酒呑童子が去って何年も経った越後国の国上ですら、悪しざまに扱われたのです。

 被害にあった直後の村なら、どう扱われるか推して知るべし。フェノエレーゼも、見る人が見ればあやかしものであるとわかります。


 だから今回はその村を迂回して、村よりずっと北西にある尾張国(おわりのくに)に向かう予定でした。


「そんなことを言っている場合ではないだろう。薬だけもらってさっさと立ち去ればいい」


「そう、ですね」


 ナギがヒナを抱き上げようとするのを制して、フェノエレーゼがヒナを背負いました。


「私が連れて行く。お前は今あまり具合が良くない時期だろう」


「すみません。ありがとう、ございます。それでは、おまかせします」


 魔性の力が強くなる日は、ナギは具合が悪くなります。師から文にナギ用の薬も添えてありましたが、苦しみを和らげるものであり、平時ほど楽になるというわけでもありません。


 どこか青白い顔色で、今のナギがヒナを運ぶのは難しそうでした。


 一路、フェノエレーゼとナギは目と鼻の先にあるあやかしを疎む村を目指します。


 少しずつ熱が上がっているのでしょう。ヒナの顔はほてって、衣越しでも熱いと感じるほどです。咳をしていて汗だくで、医者に診せないといけない状況なのがわかります。


 人間はとても弱い生き物だと、フェノエレーゼは知っています。この二百年の間にずっと見てきました。


 ヒナを背負い、フェノエレーゼは歩きます。かつて背中にあった翼は、今はない。翼のかわりにそこにいるのはヒナです。


 ヒナはフェノエレーゼの翼を取り戻すために、こんなに遠い国にまで着いてきた。

 翼があればひとっ飛びで村までいけるのに、翼を封じられなかったらヒナとは出会ってすらいなかったのです。


 縁とは皮肉なものだと、内心で自嘲します。

 サルタヒコのご機嫌とりのためでも何でもなく、死なせたくないとせつに願い、村に向かいました。

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