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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾弐 晴明塚ノ章
132/145

拾弐ノ漆 銭はどこに消えた

 日が傾き市もそろそろ終いです。

 石を売っていた男たちは、だらしなく顔をゆるませながら、本日の売り上げを数えます。


「げへへへへ。今日は四つも売れたなぁ。あの孫連れのジジイなんて、銭をぽんと出してきやがんの。ただの石ころがこんなに金になるなんて、いいもん見つけたな兄者」


「そうだろう、そうだろう。ご利益があるだの何だの言っとけば、ありがたがって買うのさ。みんな病気は嫌だからな。ただの石ころが積んであったところから盗ってきたなんて、誰も思うまい」


 無精ひげの男は兄のようです。痩せた男が弟。

 兄弟の会話を木の上で聞いていたオーサキはふんがいします。

 この兄弟は、晴明塚の石が村の人たちにとってどれだけ大切なものなのか、全くわかっていないのです。


『きゅーー。なんて人たちなの。ゆるせないわ……! あれは津波が起きないようにするためにも必要なのに!』


『はー。オサキギツネは今日も怒りっぽいでさー』


 陰陽師に仕えているわけではない雀には、オーサキの怒りぶりが理解しきれません。ギラリとニラまれて、そそくさと飛び立ちます。


『ひょえ!? あ、あっしはもっと近くで話を聞くっさ。雀ならそこらにたくさん飛んでいるから、怪しまれないっさ』


『きゅい。ちょっと待ちなさいよ雀! この温厚なあたしのどこが怒りっぽいっていうの!!』


 雀が指摘しているのはそういうところだ、と当のオーサキは気づいておりません。雀は堂々と、積まれた石の一つに着地します。


 男たちは雀を気にも止めず、金を数え続けます。

 すると、おかしなことがおこりました。


「あ、あれ? いつの間に落ち葉が紛れ込んだんだ?」


「何を言い出すんだ弟。金を管理する袋に葉っぱなんぞ入れるわけなかろう」


「いや、だって兄者。見てくれよこれ!」


 弟が震える手で広げた袋には、葉っぱがつまっていました。しかも、先程までたくさんあった銭の半分以上がなくなっているのです。


「なななな、なんだこれは! まさかお前、兄である俺を裏切って金をくすねたな!」


「何を言う! そ、それを言うなら、袋を管理していたのは兄者じゃないか! 独り占めしようとしたのは兄者の方じゃないか!?」


「は!? ふざけたことをぬかすのもたいがいにしろ!」


 とうとう二人は、その場で取っ組み合いの大ゲンカをはじめてしまいました。

 市に来ていた客たちも、何ごとかとざわめきます。


『ははぁ。予定よりもオオゴトになったっすねえ』


 雀はフェノエレーゼたちのいるほうに飛びます。ナギの手にとまると、子細を話して聞かせます。


「なるほど。盗人兄弟は自滅したか」


『つかから盗んだ石だってのも言ってたさ。そのあたりはオサキギツネのほうが詳しく覚えているはずでさ』


「そうか。タビ。オーサキにもう戻っていいと伝えて、連れてきてくれ」


『わかったにゃ、あるじさま!』


 ナギの使令を受けて、タビはただの猫のふりをしながらオーサキを迎えに行きました。


「ケンカがだいぶ盛大になってきたようだの。そろそろ役人を呼んで止めておくか」


「わたしもいく! あのままケンカを続けたら、おじちゃんたちケガしちゃう」


 お爺はあごひげをなでながら、役所の方に歩いていきます。ヒナはケンカの原因に一役買った責任を感じるので、お爺についていきました。


「ナギ。奴ら、反省して塚の石を盗むのをやめると思うか?」


「……どうでしょう。お爺さんが役人を呼んできて奴らが捕まれば、もう馬鹿なことはできない、と思いたいです」


 もう盗みと転売をしないと思いたいですが、金が減ったことで醜いケンカをはじめるような者たちです。反省したとは言いがたいところがあります。


 お爺が役人を呼んできたので、フェノエレーゼとナギも盗人たちのところに向かました。

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