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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾弐 晴明塚ノ章
131/145

拾弐ノ陸 盗人とフェノエレーゼたちのだまし合い

 あくる朝、フェノエレーゼたちが泊まる部屋に訪れたのは、人の良さそうな老人でした。齢八十になるかどうかといったところ。立派なあごヒゲをたくわえています。


 老人は一行の姿を目に止めて、まなじりをさげほほえみます。


「おぉおぉ、なんとも面白い組み合わせだな。半神の天狗に半妖の陰陽師に、人の子とは」


「喧嘩を売りに来たなら帰れ、じいさん」


「ちょ、フェノエレーゼさん! 協力してもらうのに、そのような言い方は」


「ほっほっほ。よいよい」


 老人はフェノエレーゼの辛らつな毒舌にも、気を悪くした様子はありません。


「失礼しました。おれはナギ。彼女はフェノエレーゼ。この子はヒナといいます」


「儂は……そうだの。今はお(じい)とでも呼んでおいてくれ。まずは昨日話にあった銭を用意しよう」


 どうやら、老人は自ら名乗る気はないようです。のらりくらりとはぐらかし、話題を変えました。


 老人の足元に控えていたタヌキが、二足で立ち上がります。タヌキがヒナの手に木の葉を乗せると、たちまち銅の銭に変わりました。


 自分の手の中で起こった不思議な現象に、ヒナは目を丸くします。


「わあ! すごーい! (けん)(げん)大寶(たいほう)?」

「ほう。そなた、その齢で文字が読めるのか」


 フェノエレーゼの役に立ちたい一心で、文字の読み書きを覚えたのです。お爺にほめられて、ヒナは上機嫌です。


「うん! 去年、むねちかのおじちゃんが教えてくれた!」


「むねちか?」


「ああ、ヒナさんのいう“むねちかさん”は、三条宗近さんといいまして。とてもお世話になったのです」


 三条宗近といえば、数年前に突然京を去り、行く先を知る者はいないと言われていた刀工です。

 ナギの話を聞いて、お爺は己の白いあごひげをなで、意味深な笑みを浮かべました。


「……話はここまでにして、くだんの石盗人のところに行こうか。お嬢さんや、おぬしはこの爺めと買い物に来た孫、ということにしよう」


「はい、おじいちゃん!」


 木の葉でできた銭を握りしめ、ヒナが元気よく腕を振り上げます。




 はたして、男たちは昨日と同じ場所に石を広げていました。

 ヒナはお爺と手を繋いで、いかにもおじいちゃんと買い物に来た孫のように振る舞います。


「おや、昨日お父さんと一緒にいたお嬢ちゃんじゃないか。どうしたんだい。やっぱりお母さんの具合よくないのが心配になって来たのかな?」


 男にねこなで声で聞かれて、ヒナは話をあわせます。


「うん。この石があれば、おかあさんのぐあい、よくなるんでしょ?」


「そうさ。とっても偉い陰陽師様が、俺たちに譲ってくだすった石だからね。これを持っていれば病気なんて吹き飛ぶさ」


「……おぬしらのような不届き者に、渡した覚えはないがのぅ」


 お爺がぼそりと呟いた声は、あまりに小さかったのでまわりの商人たちの声にかき消され、男には届きませんでした。


「ん? 何わけわからんことを言ってんだ爺さん」


「いいや。こちらの話じゃ。ヒナや。好きなものを選べ。爺が買ってやるからの」


「えっとね、じゃあこのまるいのと、平たいの」


 ヒナが大人の手のひらほどある大きさの石を四つ選び、お爺が銭を渡します。


「ひいふうみい。たしかに、お代は頂いたぜ。あんがとよ!」


 石を買ったヒナとお爺は、また手を繋いで市の並ぶ道を戻ります。お爺の手には石を入れたふろしき包み。

 これでまずは四つ、取り戻せました。


 もしものときのため、民家の影に控えていたフェノエレーゼとナギは、買い物が滞りなく終わったことを見届けると、雀とオーサキを市の中に行かせました。


 銭が木の葉だとわかった男たちがどう出るのか、その後を偵察するために。

 

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