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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾弐 晴明塚ノ章
130/145

拾弐ノ伍 盗人を落とす罠

「手を貸すもなにも、お前のその目立つ容姿で何をすると言うんだ」


 自分だってじゅうぶん目立つのですが、棚上げにしてフェノエレーゼは頬杖をつきます。葛ノ葉はクックッと笑って己の耳を指す。


「すまんな。儂は晴明様の式神の中でも若輩(じゃくはい)。人化は不得手で、耳と尾を隠せないんじゃ。そなたのように人間と見まごうほどになるには、あと百年はかかるかのぅ」


 フェノエレーゼがあやかしであることを見透かした言い方に、フェノエレーゼは不快感をあらわにします。


 あわやケンカになるかというような険悪な空気などなんのその。

 ヒナは持ち前の好奇心で、左右に揺れる葛ノ葉の尻尾を食い入るように見つめます。


「ねえお兄さん。よくわからないけど、その尻尾はホンモノってこと? 触ってみてもいい?」


「やめてくれ。儂の名を呼ぶのも、儂に触れていいのも、晴明様だけゆえ」


「ええ……ざんねん」


 しゅんとするヒナに、雀やタビが口々に言います。


『ちちぃ。嬢ちゃん元気出すでさ! あっしにならいくらでもさわってくれてかまわないっさ!』


『にゃー。オイラも、撫でさせてやってもいいぞ』


『きゅい! あたしはだめよ。あたしのすべては主様のものだから!』


 オーサキだけはナギの肩の上で、なんの慰めにもならないことを言います。まあ、どのみちヒナには聞こえていません。


「お前ら話の腰を折るな」


 フェノエレーゼに釘を刺されて、ヒナは両手で自分の口をふさいで、静かにします。


「人化は不得手だが、晴明様は儂の目と耳を介して、こちらを見聞きすることができる。儂は偵察の式神なんだ」


「ということは、ここでの会話を安倍晴明様が聞いているのですね」


「うむ。つまり、儂と話すことは晴明様と話すことと同義。そなたたち、礼節をわきまえよ。そこの天狗殿もな」


「断る。偉いのはお前ではないだろう」


 堂々とふんぞり返る葛ノ葉に、ナギは苦笑します。初対面からにらみ合うフェノエレーゼと葛ノ葉ですが、どことなく気質が似ているように思いました。


 似た者同士だから反発するのでしょう。

 

「それで、くずのはさん。どうやってあのおじさんたちを止めるの?」


「晴明様からの提案でな、これを使ってはどうか」


 葛ノ葉が拾い上げて掲げたのは、風に吹かれて舞い込んできたモミジです。



「そんな葉っぱでどうするつもりだ」


「晴明様の式神の中には、一時的に葉の見た目を変えられる妖もいてな。そやつの妖力で、これを銭に変えるのだ。長くは持たぬから、半刻もすればもとのモミジに戻る」


「なるほど。それを使って彼らから塚の石を買い取る。彼らが気づいたときにはただの落ち葉に戻っている、ということですね。盗品を売りさばいているのだから、詐欺に遭ったなどと検非違使(けびいし)に泣きつくこともできない」


 ナギが感心して、ため息をつきます。

 妖術を使って詐欺をはたらくのはほめられたことではありませんが、今回は相手が盗人です。


 男たちが懲りて盗みをやめるか、それとも逆恨みしてくるか。それはやってみないとわからないでしょう。


「はい! じゃあわたしが、石を買う役をするわ! おつかいで来たって言えば、疑われないかも」


「ヒナさん一人では運べないでしょう。おれが一緒に行って石を持ちましょう」


 ヒナとナギが名乗りをあげます。


「ナギはさっき買うのを断ったし、一度要らぬと言った者が買いに行くのは不審に思われないか?」


「ですが、塚に近づくことができなかったことを考えると、フェノエレーゼさんはあの石に触れられないでしょう?」


「それはそうだが……」


 ああでもないこうでもないと意見を交わすフェノエレーゼとナギですが、妙案は出ません。政信が同行していたら適役だったのでしょうが、あいにくここにはいないのです。


 葛ノ葉がこほんと咳払いを一つして、紙の姿に戻ります。


「今宵はもう遅いし、いったん休むとよい。明朝、その荷運びに適した者が来ると、晴明様からの言伝(ことづて)だ」


 一言いうと、風に乗って闇夜に飛んでいきました。

 荷運び役をしてくれる者が誰なのかはわかりません。

 信用していいのかも悩むところですが、フェノエレーゼたちだけではどうこうできないのは確かです。

 葛ノ葉の言伝どおり、明日を待つことにしました。

 

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