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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾壱 絡新婦ノ章
125/145

閑話 天高く雀肥ゆる秋

 フェノエレーゼ一行は遠江国を目指して旅立ちました。

 紅葉した葉が雨の降り注ぐ道を、南西に下って行きます。

 日に日に深まる紅葉。空は青く高く、気持ちのいい秋晴れです。越後の同じ時期よりも気温が高めで、歩いていれば寒さを感じない程度の暖かさがあります。


 そして、日に日に増していく雀の食欲。


 たった一羽で、フェノエレーゼ・ヒナ・ナギの三人が食べる量よりも食すのです。体の大きさよりも食べるもののカサのほうが多いので、食べたものがどこにしまわれ消化されているのか、はなはだ疑問です。


 遠慮という言葉を母雀の腹の中に忘れてきたのかもしれません。

 吸引力の変わらないただ一羽の雀。とフェノエレーゼに皮肉を言われる始末です。


 そんな生活が続いたものですから、やはりというかなんというか。重くなりすぎて飛び上がれなくなりました。



 今はヒナの肩に乗って運ばれています。


『チチチー。あー、嬢ちゃんの肩の上は快適でさー』


「チッ。やはりこんな蹴鞠(けまり)、埋めていくべきか」


『きゅい! いいこと言うわね白いの! 賛成賛成! もしくはあたしのご飯にしてしまうのはどうかしら』


『そんなせっしょーな! 旦那が蜘蛛に捕まったとき助けに行ったのに!!』


 フェノエレーゼとオーサキの辛辣なつぶやきに、雀が悲鳴を上げます。


「フエノさん、丸ちゃんを埋めちゃだめよ。地面をたくさん歩いたら飛べるくらいまで痩せるんじゃないかしら」


「いや、一番痩せる方法は断食でしょう。雀が断食すればすべて解決するのではないですか」


「丸ちゃんはおなかすいたら結局食べちゃうから、やっぱり食べた分以上に動くのがいいと思うの」


『走れば、やせるにゃ』


 ナギとヒナ、タビも、助けるどころか雀を痩せさせる方法の議論をはじめました。ヒナの場合はイヤミではなく、純粋に雀の体を心配してのことですが、雀には閻魔(えんま)の宣告に聞こえます。


『ちちいいいい! あっしは運動なんてしたくないっさ! 断食もいやでさ! 埋められるのももっとイヤでさーー!!』


「ふん。あれも嫌これも嫌。やはり埋めるのが一番手っ取り早いな」


『イヤでさぁーーーーーー!! あっしはたらふく食べたいでさーーーー!!』


 太りすぎて飛べなくなったというのに、まだ食べたいとわがままをいう雀。フェノエレーゼの堪忍袋の緒も、そろそろブチ切れるところです。


「ああ、そういえば絡新婦に囚われていた男たちは、毒キノコを食わされてその毒のせいかかなり痩せていたんだ。つまり……こいつを雀に食わせれば」


 フェノエレーゼがそこら辺から赤い傘に白の斑点を持つ怪しいキノコをもいできたので、雀が泣きながら飛び立ちます。


『毒キノコが主食なんて、カンベンでさぁーーーー!! 歩くっさ! 飛ぶっさ! だから毒キノコだけはぁああーー!』


「あぁ!! 丸ちゃーーーーん!! そっちは蜘蛛の巣があって危ないよう!」


「なんだ。飛べるじゃないか」


 実は。雀は飛ぶのがおっくうになっただけであって、飛べないなんて口から出まかせだったのです。

 このままヒナの肩にとまって次の村まで楽しようなんて考えていたけれど、フェノエレーゼの目が“毒キノコ食わす”と本気で言っていたので、涙ながらに飛ぶことを選びました。


 飛べないのが嘘だとわかったフェノエレーゼは、雀が楽をしようとするたびに“毒キノコ”と言い出すので、結果的に、雀は最大に太っていたときよりもほんのちょっとだけ痩せることができましたとさ。




 閑話 天高く雀肥ゆる秋 終

 

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