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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾壱 絡新婦ノ章
123/145

拾壱ノ玖 村への帰還

「あ、そうだ! ヒナさんや先に失踪していた村人たちををさがしにいかないと」


 ナギは我にかえり、慌てて手を引っ込めます。

 フェノエレーゼがヒナをつれていないので、もしかしてまだ森の中にいるのではないかと心配になります。

 オババから受けた依頼も、絡新婦退治ではなく、行方不明者の捜索。


 失踪事件の原因である絡新婦を退治したのだから、あとはどこかに囚われているであろう若者を探さなければいけません。


「落ち着けナギ。ヒナなら、廃神社に囚われていた私を助けに来た。一緒に虜囚(りょしゅう)になっていた他の男たちを村に誘導するよう言っておいたから、今頃村で私達が戻るのを待っているだろう」


「よかった。みんな無事なのですね」


全員(みんな)、とはいかなかったがな。……ひと月前に囚われていたらしい男は、もう死んでいた。生き残ったのは二人だけだ」


 同情もなにもなく、淡々と事実だけ告げます。

 妖怪に囚われてかなりの日が経っているのです。生き残りがいただけでも幸いでしょう。


「……そう、ですか。生き残った人のことや絡新婦のことも含めて、オババ様のところに、報告に行かなければなりませんね」


「あまり気に病むなよ。あいつらとて、はなから全員が無傷で助かるなどとは思っていないだろう」


 亡くなった被害者の家族などから、なぜ私の子を助けられなかったんだと、なじるられるでしょう。

 助かった者と助からなかった者の運命を左右したのは、絡新婦の気まぐれや空腹具合でしかないのです。


 ナギに責任はないとわかっていても、誰かに当たらずにいられない者は必ずいる。

 重い気持ちで、ナギとフェノエレーゼは村に帰還しました。




『きゅいいいぃいーーー! あるじさまあーーーー。たーすーけーてえーー! ぐすん、ぐすん』


「この声、オーサキに何が!?」


 なにやらオババの家のあたりから、オーサキの悲鳴が聞こえてきます。

 何事かと二人が急ぐと、そこにはお湯を張った大きな桶が置かれていました。

 ヒナがオーサキをお湯にひたして、手ぬぐいで蜘蛛糸をはがしているのです。


 自慢の毛皮がひっぱられて、オーサキは泣きじゃくります。


『いいぃやああーーー!! たーすーけーてー!』


「もー。暴れちゃだめよ、オーサキちゃん。糸がガンジョーでなかなか取れないんだから」


『えぐっえぐっ。痛いのいやぁーーーー!!』


『チチチィ。我慢するっさ、オサキギツネ。はがないとずっとミノムシのまんまでさ』


『それもイヤーーーー!』


『にゃ! 姉ちゃん、がんばって!』


 かわいそうではあるけれど、なんとも平和な光景に、ナギは笑ってしまいます。


「ヒナさん、お手柔らかにたのみますよ。オーサキは痛いのがイヤって言っています」


「あ! フエノさん、ナギお兄さん、おかえりなさい! オババさまは中で待っているわ」


『きゅいー! ちょっとそこの白いの、アタシを助けなさいよ!』


「そうか。ナギ、さっさと話を済ませよう」


 オーサキのなげきを無視してオババのもとに向かいます。


 まずはナギとフェノエレーゼにねぎらいの言葉をかけて、深々頭を下げてお礼を言われました。


 それから、助けた二人の男に関して戻ったあとのことを話してくれます。

 男たちは毒のせいで衰弱していましたが、命に別状はないとのことでした。

 しばらく静養すれば普段の生活に戻れそうです。


「礼と言っては難じゃが、陰陽師殿に伴侶はいないかね。もしまだのようなら、村からいっとう器量よしの娘を嫁にして、ずっとこの村にいても」


「却下。礼なら他のものにしろ」


 オババの声を遮って、フェノエレーゼが言います。


「ならお前さんでもいいのじゃぞ。器量よしの嫁を持てるのは男の幸せじゃろうて」


「却下」


 嫁をあてがおうとした相手が人間嫌いの天狗様だと、オババは知るよしもありません。


「それは残念じゃの。今日はもう遅い、ここに泊まっていきなされ。明日はせいいっぱいの馳走を出すでの」


 最初からそうしてくれと、内心で毒づくフェノエレーゼでした。

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