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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾壱 絡新婦ノ章
120/145

拾壱ノ陸 フェノエレーゼを探しに

 村でフェノエレーゼとオーサキの帰りを待っていたナギですが、夕方になってもフェノエレーゼが戻らないので、さすがに不安になってきました。


 森をくまなく調べるにしても、日が落ちるまで帰らないなんてことはしないでしょう。

 探しに行こうかと、村の外を気にします。

 「ナギは狙われる可能性が高いから来るな」とフェノエレーゼに言われていたけれど、心配なものは心配です。


 村の中で遊んでいたヒナが、オババのひ孫たちをつれて帰ってきて、落ち着かない様子のナギに聞きます。


「ナギお兄さん、どうしたの? なにかあったの?」


「ヒナさん。それが……。フェノエレーゼさんとオーサキが周囲の調査をしに行ってくれたのですが、まだ戻ってこないのです」


「ええ!? ど、どうしのかなフエノさん。もしかして、崖から落ちたときみたいに、怪我をして動けなくなっているのかな」


「いえ。それならオーサキが伝令に来るはず」


 二人ともが戻らないとなると、なにか別の理由があるのでしょう。


『にゃ。あるじさま、オイラがいこうか? てんぐと姉ちゃん探してくる』


『チチチチ。あっしもいくっさ! 役に立つってところを見せてやるっさ!』


 タビと雀がいきごんでいると、ふたり組の木こりがおりて来ました。背負子に薪を山積みにしています。


「おんや、見かけない格好の男だに。もしかして、あんたがフエノが言っていた陰陽師だに?」


「フエノ!? 貴方たちはフェノエレーゼさんに会ったのですか!? どこで!」


 木こりたちはつかみかからんばかりのナギの勢いに気圧されて、飛びのきます。


「お、おおおぅ!? 何をそんなに慌てているんだに、陰陽師さん。また日が真上にある頃に、そこの一本道で会ったんだ。おらたちの村でも、居なくなった人はいねぇかって聞かれたんだ。それ以降は会ってねぇ」


「…………そう、ですか。すみません。ありがとうございます」


 正午ということは、フェノエレーゼが村を発ってすぐです。最後に目撃されたのが一本道なら、まずそこに行ってみることにしました。


 ヒナが絶対ついていくと言ってきかないので、護身用の札を持たせ、タビと雀をヒナの護衛につけます。

 なにか妖怪のたぐいに出くわしても、絶対ヒナひとりで無理をしないことを約束させました。


 夕日の色に染まる山道を、ナギとヒナで歩きます。

 そこそこの広さがある見晴らしのいい道で、行き先を見失う要素なんてありません。

 森の中を見回し、ヒナは空を見上げて一点を指差します。


「ねえナギお兄さん。あれは何かしら。カラスがたくさん集まって鳴いているわ」


「あれは……」


 とびぬけて高い杉のあたりに、カラスが何十羽と群がっていました。空がそこだけ黒いので、嫌に目を引きます。

 ヒナの肩にとまっていた雀が、ひとこえ鳴きます。

 近くを飛んでいた雀が数羽集まってきて、何やらチイチイ騒ぎます。


『チチチ。カラスたちは、どくけし、さがしてる。家くらい大きなクモの巣に、と言ってるでさ。雀だってこのあたりで暮らしてるから、カラスたちの変化を気にしてるらしいっさ』


「巨大なクモの巣……? まさか、蜘蛛にまつわる妖怪か。カラスがそこに毒消しを運んでいる?」


「あ! カラスさんたちは、もしかしてフエノさんに言われて動いてるんじゃないかな。ほら、ソウジくんを探すのに、カラスさんとお話していたでしょ?」

 

「じゃあ、フェノエレーゼさんはそこに。………ここで考えているだけでは埒が明かないな。居所を探さないと」


 毒消しを運ばせるということは、毒を使う妖怪か。誰かが毒に侵されている。これまで失踪している若者か、もしかしたらフェノエレーゼ自身が。


 悪い方にばかり考えてしまいそうで、ナギはかぶりを振ります。

 ガサガサと大きな音を立てながら、道からそれた茂みの中から小さくて白い獣が飛び出してきました。


『きゅいーーーー!! あるじさまあるじさまあるじさまあるじさまぁーーーー!!』


「オーサキ!! 無事だったか。フェノエレーゼさんは一緒じゃないのか?」


『きゅい! こっちに来て主様! 変な森に通じるところがあるの! 白いのは、幻術をつかう妖怪につれて行かれちゃったの! きがついたら霧の深いところにいてね、最初は人間の娘に見せかけてたんだけど、白いのに触ったとたんクモの本性が』


 半泣きでオーサキがこれまでに起こったことをまくしたて、オーサキの言葉から、ナギは行方不明者が続出している元凶に思い至りました。



絡新婦(じょろうぐも)か。どうりで、若い男ばかりいなくなるわけだ。……ヒナさん。もしものときのために、教えた九字(くじ)、覚えていますか」


「りんぴょうとうしゃ、っていうあれでしょ?」


「ええ。もしもこの霧の中で女人に会ったら、それは妖怪です。すぐに逃げてください。それでも追われたら九字を唱えて札を投げる。あなただけでも逃げる。約束できますか」


「う、うん!」

 

 ナギの話の途中から、視界が、突然あらわれた深い霧につつまれます。

 目の前にいたはずのナギの姿が見えなくなり、ヒナは雀を抱きかかえて、タビにしがみつきます。


『チチチ。嬢ちゃん、気をつけるっさ。この森は変でさ』


 雀の言葉はわからなくても、警戒しろと言ってくれていると感じます。

 怖くて震えながらも、それでも足を踏み出しました。

 

「……わたし、がんばる。きっと、フエノさんたちはこの森のどこかにいる」

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