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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
弐 桜木精ノ章
12/145

弐ノ弐 陰陽師

『チチチー! めしめしめしめしめしー! めしよこせー!』


「寄るな不気味な雀め! お前にやる飯などない!」


 フェノエレーゼが声のする方に駆けつけると、切り株が二つ並んだ分かれ道に、空のような青で染められた狩衣をまとう若者がいました。

 雀はその若者に……否、若者の持つ弁当に飛びかかっていました。


 若者は袖を振り回し雀を追い払おうと必死になっています。


「おい雀、やめろ!」


「丸ちゃん、人のものをとっちゃダメよ!」


 フェノエレーゼとヒナが止めに入り、ようやく雀は若者から離れました。

 それでも目線はまだ物欲しそうに若者の弁当に注がれています。


「この雀、もしや式神? 貴女はおれの同業者ですか?」


 若者は驚き目を見開きました。

 長い黒髪をうなじでひとつに束ねていて、心なしか右目は紫がかって見えます。

 左手は怪我を負っているのか、細い布が手をおおい隠すように巻かれています。


「これは式とか言うものではない。勝手についてきたんだ。同業、とはなんのことだ?」


「……おれはナギ。さる陰陽師のもとで学び、妖怪の被害に苦しむ者の救済をしています。貴女のその不思議な色は妖怪の仕業なのでしょうか?」


 ナギはフェノエレーゼの白銀に煌めく髪と瞳を、妖怪の仕業ととらえたようです。


 翼を奪われ妖力を失っているため、ナギは今のところ、フェノエレーゼが妖怪であると気づいていないようです。

 自分が最も嫌う陰陽師を前にして、フェノエレーゼは警戒をしました。


 下手に己のことを口にすれば狩られるか、式にされるか。

 どちらにしろ楽しい結果になりそうもありません。

 どうやって妖怪とばれないようこの場を切り抜けるか考えました。


「フエノさんは、てんむぎょ!」


 ヒナが口を滑らせる前に、両手でその口を押さえつけます。


「あいにく同業ではない。私はフエノという。かつては町で白拍子をしていた」


「むうーー! むむむー」


「サルタヒコという烏の手でこのような姿にされた。もとに戻る方法を探す旅をしているところだ」


 すべてを嘘で塗り固めたところで怪しまれるだけなので、一部本当のことを混ぜて話します。


 黙ってフェノエレーゼの話を聞いていたナギは腕組みして眉をひそめています。

 何かに怒っているような気迫を感じとり、フェノエレーゼは後退りました。


「ああ、失礼しました。貴女も妖怪のせいで辛い思いをしているのですね」


「ぷはっ! あなた、も? お兄さん、何か辛いことがあったの?」


 フェノエレーゼの手を逃れたヒナが、ナギを見上げます。


「おれは……いや、人に話すようなことではない。おれのことより、貴女たちは旅をしているのでしたね。どこに行くおつもりですか?」


「とくにこれといってあてはない。まずはこの先の村を目指している」


「村はここからそう遠くないですよ。おれは朝そこを発ったばかり。今から向かえば日が高いうちに村に着くでしょう」


 村が近いと聞き、ヒナと、ヒナの頭にのっている雀が喜びます。


「わぁい。お兄さん、ありがとう! 急ぎましょ、フエノさん!」


『チチチ、めしめしーー!』


 ヒナが意気揚々と駆け出し、フェノエレーゼはちらりとナギを振り返ります。


「ナギと言ったな。この先にはひなびた村しかないはずだが、何故陰陽師である貴殿がここにいる?」


「おれはこの辺りの桜に憑いているという妖怪を祓いに来ました。貴女は……まだ行ったことがないなら京の都を目指すと良いでしょう。

 あそこは呪術に長けた者も多い。貴女にかけられた術を祓うすべも、見つかるかもしれません」


「……覚えておこう」


 ナギがただの旅人でなく陰陽師としてここにいることを知り、春先なのに嫌に冷たい風がふたりの間を吹き抜けました。


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