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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾壱 絡新婦ノ章
118/145

拾壱ノ参 迷いの森

 農民に扮したフェノエレーゼは、まずとなり村に行ってみることにしました。

 若い男だけが行方しれずになるという異様なことが、別の村でも起こっていないかどうかを調べようと思いました。


 小鳥のさえずりがひびく、のどかな山道を行きます。


『きゅいー。なんのへんてつもない、ありふれた山道ねぇ。さあさあ、白いの! あたしの(・・・・)主様のためにキビキビ働きなさい!』


「お前、人の肩に乗っているだけのくせに何をエラそうに」


 フェノエレーゼの肩には、オーサキがいました。


『きゅきゅきゅ~。やあねえ、二百年も生きてるとボケるのも早いの? あたしは“オーサキなら人に化けたあやかしもかぎ分けられるだろう”って、主様がおっしゃったからあんたと一緒に来たの。ほんとうは主様のそばを離れるのは嫌なんだけど、愛する主様がぜひあたしにって』


 オーサキの口からナギへの愛があふれ出ます。フェノエレーゼはもう相手をするのが面倒くさくなり、オーサキを無視してひたすら歩きました。


 ほぼ一本道で、わき道はありません。

 よほど方向オンチでないかぎりは、迷わずとなり村に着けるでしょう。

 四半刻(しはんとき)ほど歩いたでしょうか。向こうから、背負子(しょいこ)をせおった背の高い男と、斧を二本持った猫背の男が歩いてきました。


「おやぁ、けっこい兄さんだに。となり村にあんたみたいな人おったけ?」


「……けっこい? 意味はよくわからんが、私は旅の者だ。あちらの村で若者が何人かいなくなったと聞いて、仲間と共に調べている」


 当たり障りない程度にフェノエレーゼが身の上を言うと、猫背の男がおおきくのけぞります。


「オババの村でもけ!? なんぞ、みんなこんな山ん中がイヤで、都にでも出ていっちまったんかなぁ」


「それは知らん。そちらの村でも誰かいなくなったのか」


「ああ。おらの弟……キスケがな。今年十七になったばかりなんだが、十日ほど前から、ふらりとどこかにいっちまった。村人総出で探したんだが、見つからなかった。見ず知らずのモンに頼むのは申し訳ねぇんだが、あんたの探している者たちを探す途中におらの弟をみつけたら、どうかけえってきてくれと、伝えてほしい」


 猫背の男は地面をみつめ、悲しそうにつぶやきます。


「……もし、会えたらな。他に、居なくなった者は? 女子こどもは無事なのか?」


「いんや。いつもどおり、(わらわ)たちは朝からおいかけっこしてあそんでるし、女たちは料理や洗濯してるなぁ」


 背の高い男はのんびりした口調で、洗濯物をほすような身振り手振りを加えて言います。


「ふむ。とくに変わりはないわけか」


 フェノエレーゼは考えます。

 となり村でも、二十になるかならないかの、若い男がいなくなっていたのです。目の前にいる二人は、見たところ三十後半になろうかというところです。


 若者たちが自らの意思で行方をくらませているのか。

 しかし、揃いも揃って似たような年令の男ばかり。

 あまりにも不自然です。


 オーサキは鼻をスンとならします。


『きゅい。クンクンクン。このオジサンたちがぶじってことは、この先の村に何もいないってことかしらね。この人たちはフツーの人間のにおいよ。あやかしものの残り香もなにもないわ』


 人前でオーサキと会話するとおかしな人にしか見えないと理解しているので、フェノエレーゼはあいづちをうつにとどめました。


「それじゃあ、もしも見つかったら、よろしくなお兄さん。名前を聞いてもいいかに」


「フエノ、という」


「そうかい。フエノさん。山ん中は日が落ちるとすぐに暗くなるけ、道中気をつけてな」


 村人二人は、当初の目的である(たきぎ)を集めに、道から外れて山奥へといきました。


 男たちと別れ、フェノエレーゼは再び村を目指して歩きます。


 やがて、あたりには霧がたちこめ、おかしなことが起こりました。


 もう先程の二人と別れて一刻(いっこく)も歩いているのに、村が見えてこないのです。

 フェノエレーゼの足でも、半刻あれば一里を歩けるのです。


 それなのに、山道が延々とどこまでも続きます。


「……様子がおかしいな」


『きゅいー。そうね。何なのかしらこれは。森の中にいるのに、草木のニオイが消えたわ。気をつけて』


 立ち止まると、フッと一部だけ霧が薄れます。

 そこに一人の若い女があらわれ、静かに、フェノエレーゼに微笑みかけてきました。





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