拾壱ノ弐 行方知れずの者たち
案内されたオババの家。
村一の長寿というおばあさんが出迎えてくれました。
そばにはひ孫だという、三才くらいの童女が二人います。きゃっきゃっと笑いかけまわる子どもの声にへきえきして、フェノエレーゼは両手で耳をふさぎます。
「ヒナ。外でそいつらと遊んでいろ。うるさくてかなわん」
「わかったわ。ねぇ、お外であそぼ。おばあちゃんたち、大切なお話しないとなんだって」
「わぁい! あそぼ、あそぼ!」
ヒナより幼い二人の子は、元気よく返事をしてヒナの手を取って走り出しました。
子どもたちがいなくなったところで、本題に入ります。
おばあさんはいろりで燃える炭をじいっと見つめながら、切り出しました。
「実はな、ひと月ほど前から村の若いもんが次々いなくなっておるんだに。最初は、となり村へ使いに出した五兵衛んとこのせがれが、夜になっても帰ってこんかったんさー」
「となり村は、一日で往復できるていどに近いのですね」
「ああ。女子どもの足でも、朝出立して、昼過ぎには用事を終えて帰って来れるんさ。おかしいと思ったけ、五兵衛が次の朝となり村に行ったん。村のモンは、せがれは来とらんと言いよる」
話の雲行きが怪しくなり、ナギがゴクリとつばをのみます。
「そのせがれとやらが、家出したという可能性はないのか。田舎が嫌だから都で暮らしたい、なんて人間にはよくあるだろう」
おばあさんはフェノエレーゼの問いに、首を左右にふります。
「あの子は親父のあとをついで村を守ると、いつも言っておった。親やまわりに何も告げずいなくなるような子ではない。村の大人たちが総出で何日も探したが、見つからんかったんだに。そんで、十日ほど経った頃、こんどはうちの孫がおらんくなった。きのこ狩りに行くと出ていって、それきりさ」
その後もひとりふたり、同様に理由もなく、村の外に出たきり帰らないと、おばあさんは言います。
年かさの男や、女が使いに出ても何事もなく帰ってくる。行方不明になるのは若い男ばかり。
おばあさんの家に案内してきた女性が、陰陽師のちからが必要な事態だと感じるのもうなずける話でした。
「村の中に何かあるわけではない……ですね。子どもたちが遊びまわれるくらいには平和なのですから」
『きゅい! ええ。村には妖のにおいはありませんわ』
ナギの肩にいるオーサキが、自身まんまんで胸を張ります。
「夜道怪のときのように幼子が狙われるわけではないんだな。となると、誘拐目的の人間でもない。若い男なんて、やすやす誘拐できる相手ではない」
『にゃ。じゃあ、ハンニンは何がもくてき?』
失踪する元凶は村の中にはなく、人間でもない。
村の外に、何か目的を持って若い男だけを狙う存在がいるのかもしれません。
「ふむ。村の外を調査する必要があるな。今回は私が囮となろう。おい、ばあさん。男物の着物を一式貸せ。農民に扮していれば、あちらも油断するはずだ」
「ああ。こっちはいなくなった者たちを探してもらうんだ。それくらいの協力は惜しまんよ。わしの息子が昔着ていたのがちょうどいいかねぇ」
おばあさんが家の奥から出してきた着物を、フェノエレーゼが受け取ります。
「ちょ、フェノエレーゼさん!? 囮ならおれが」
自分が囮になる、フェノエレーゼを危険に晒したくはない、そう言って止めるナギを、フェノエレーゼは説得します。
「今この村で、人に害なす妖を退治できるのはナギだけだろう。それに相手の狙いが若い男なら、お前がまっさきに狙われる。私が相手を突き止めるまでは大人しくしていろ」
『きゅいきゅい! そうですわ主様! 主様はいわばカナメ。主様がオトリになったら、誰が妖怪を退治するのです!』
オーサキにまで言われてしまい、ナギはフェノエレーゼが囮になるという作戦を飲むしかありませんでした。