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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
拾壱 絡新婦ノ章
116/145

拾壱ノ壱 駿河ノ事変

 長月も半ば。

 フェノエレーゼ一行は富士の付近にある、駿河国(するがのくに)にいました。


 小春日和で、雲一つない青空です。

 フェノエレーゼは降り積もる木の葉を踏み荒らしながら、歩みを進めます。


「くそ。人里はまだか。もう四日も野宿しているのだぞ。そろそろ見えてきてもいいんじゃないか」


『チチチチ。旦那ぁ。人間嫌いなのに人里を探すってすごいムジュンでさー』


「だまれ阿呆!」


『ギャーーッス!』


 するどいケリをくらい、雀が大空に飛び立っていきました。


『きゅーい! いいわよ白いの、やっちゃって!!』


『にゃ! そうだそうだ! 雀はあるじさまのぶんのごはんまで食べた! 悪い子! 次やったら食っちゃうぞ!』


 雀を助けるどころか加勢する式神たち。

 自分たちは野山のネズミを狩って食べられるけれど、ナギとヒナはきちんとした食べ物でなければならない。

 なのに、雀に貴重な食料を食べ尽くされてしまったので腹を立てています。


 式神たちの声なんて聞こえちゃいないヒナが、大慌てで走ります。


「丸ちゃーーん! ひどいわフエノさん。なんでいつも丸ちゃんをいじめるの!」


『うう。ジゴクにホトケでさ。あっしを助けてくれるのは嬢ちゃんだけでさ』


 ヒナが葉っぱまみれになった雀を拾い上げて、ていねいに手ぬぐいでふいてあげます。わざとらしくヒナにすりより泣き真似をする姿に、フェノエレーゼの怒りが増します。


「雀を甘やかすなヒナ! お前もナギも食料がなければ飢え死にするだろうが。もっと怒れ! 雀なんかそこら辺の虫でも食ってればいいんだ!」


 若干私怨も混じっていそうですが、怒る理由がヒナとナギのためだったことに、ナギは小さく笑います。


「おれたちのために、ありがとうございます。けとばすのは少々やりすぎだけれど、たしかに毎回食料を食べ尽くされていては、旅に支障が出ますね。雀用を別に用意するのは無理がありますし……。ほんとうに虫か木の実を食べるようにしてもらわないと」


 真剣な顔であごに手をあて考えるナギに、フェノエレーゼが提案します。


「そうだ。いっそここに埋めていこう。それがいい」


『チチチチッ! 天狗の皮をかぶった鬼がいるでさ!』


 キチクな案に、必死に羽をばたつかせる雀。

 心なしかヒナも困り顔です。


「あれ……なんだか丸ちゃん、旅立ったときより重くなった? あんまり太ると、とべなくなっちゃうわよ。少し食べる量を減らしたほうがいいんじゃないかな」


『チチチ。嬢ちゃんまで!? そんなせっしょーな! 食はあっしの生きがいなのに……!』


 嘆いていたかと思いきや、雀はガバッと顔を上げて、ヒナの手のひらでばたつきます。


『はっ!! いのしし鍋のニオイでさー!!!! あっちに村があるっさ!』


「丸ちゃん!」


 こんな時ばかり素早く、雀は矢のようにまっすぐ道の向こうに消えていきました。


 冗談抜きに、本気で雀を埋めようかと思うフェノエレーゼでした。




 雀がしめす先は、家が五、六軒点在するこじんまりした集落でした。

 年かさの男が数人、畑で作物を収穫する姿が見えます。

 木と木の間に紐が張られていて、そこに洗濯物を干す女たちもいます。


 フェノエレーゼたちが村に足を踏み入れると、農作業を手伝っていたらしい泥だらけの女性が通りかかり、ナギに目を留めました。

 そして鬼気迫る顔で大きな声をあげます。


「もしやその身なりは、音に聞く陰陽師殿でねえけ!?」


「え、ええ。見習いではありますが、陰陽道を学んでいます。なにか、陰陽師の力を必要とすることがあったのですか?」


 ただ事ではない様子を感じ取り、ナギは女性に聞きます。

 女性は三十後半といったところ。胸の前で両手をあわせ、わらにもすがるような、つらそうな面持ちで言います。


「行方しれずとなった若者たちを、探してほしいんさ。陰陽師は、人探しもできると聞いた」


「若者、たち? 村人が何人もいなくなっているのですか?」


「はい。……外では難だの。オババんちに案内するけ、詳しい話はそこで」


 ナギはフェノエレーゼをちらりと見て、フェノエレーゼはうなずきます。人だけでは解決できないなにかが、この地で起きている。

 話を聞くため、一行は女性のあとに続きました。

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