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拾ノ玖 それぞれの思い描く未来

 ヒナがキヌとのあいさつを済ませた翌朝。

 政信が旅立ちの見送りに来てくれました。

 政信は棚機津女の儀式を見届けるため、村に残ります。

 ついでに愛し君ともっと一緒にいたい、嫁としてここに残ってくれとごねていたけれど、フェノエレーゼが絶対に嫌だと拒否して逃げました。



 出立した一行は、甲斐国を南西に進みます。


 夏の日差しはまぶしくて、ヒナと雀が元気よく先頭を走ります。


 ヒナから遅れて歩くのはフェノエレーゼとナギです。

 フェノエレーゼは右腕を空にかざし、目を細めます。その腕は、呪をかけられる前の真っ白な肌に戻っていました。

 おもいを倒したあと、右腕をおおっていた呪が消えたのです。

 

「師匠は、あなたにかけられた呪は愛情を知ってはじめて解ける、と言っていましたね」


「愛情ね……。私とは無縁なものに思えるが」


 フェノエレーゼは自他ともに認める人嫌い。しかも今回やったのは、少女を生け贄にする儀式を滞りなくするという手伝いです。とても愛情に関わるものと思えませんでした。


「貴女がおれを助けてくれたからでしょうか。誰かを守ろうとすることで呪が解ける?」


「……確かにあのときはナギを助けることしか考えてなかったが。そういうものなのか?」


 ナギの肩にいたオーサキが、ナギとフェノエレーゼを交互に見てあらぬ妄想を暴走させます。


『きゅい~!! 愛で解けるマジナイ……白いの、あんたまさか主様にケソウを!? だめよ、主様の妻君になるのはあたしなんだから!』


「は? いきなり何を言い出すんだ、おまえ」


 ナギを助けたいと言ったのはたしかですが、なぜいきなり妻にいきつくのか。たくましすぎる想像力に、ほとほと呆れます。


 ツユクサがしげる川辺を大股で歩き、ヒナに追いつくと、ヒナはフェノエレーゼの袖を引いて聞きます。



「ねえねえ、フエノさん。呪がとけたら、フエノさんはその先どうするの?」


「ふん。そうだな。翼を取り戻したら、まずはあやかしの里にいるサルタヒコを殴りに行く。あやつは私の自由を奪ったのだ。一発や二発殴るくらいじゃ済まさん。スマキにしてやるわ!」


 そう言って天を指差し、高らかに笑います。


『チチチぃ。天狗なのに悪鬼のようで……っさーーーー!!!!』


 例のごとく扇で殴られ、雀が地面に転がります。

 善行をつむ旅をする最終目的がそれで大丈夫なのだろうかと、ナギが苦笑します。


 姿形はそこらの姫君に劣らない美しさなのに、口を開けば自尊心のかたまりの天狗様。

 子どもみたいに自信満々に笑う顔すらもかわいらしいと思うのは、惚れた弱みというやつでしょう。


「ナギお兄さんは?」


「おれですか? ……そうですね。叶うなら、日ノ本を全てまわってみたいです。世にはまだ知らぬ陰陽道のことや先人が、たくさんいるのですから。おれは、もっと多くを学びたい」


 今回のことで、ナギは知るべきことがたくさんあると実感しました。一つでも多く術や知識を持っていたならば、キヌのような生け贄を出さなくても解決できることがあるかもしれないのです。


『きゅい! さすがあたしの主様ですわ! どこまでもついていきます!』


『オイラも! あるじさまと、ずっとたくさん旅する!』


「ああ。頼りにしている」


 式神二匹も、己の意思でナギに付き従います。



「そういうお前は?」


 フェノエレーゼに聞かれて、ヒナは照れ笑いしながら答えます。


「まだわかんない。でもね、えっと、フエノさんの呪がとけたあとも、みんなでこうして旅をしていられたら、楽しいのになって思うの」


 寿命の違いがあるので、この中で真っ先に命を終えてしまうのはヒナでしょう。

 あやかしであるフェノエレーゼはもちろんのこと、半妖であるナギは、人間よりもながく命が続きます。


 けれど、ヒナの命があるうちはきっと、その夢も夢ではないかもしれません。


「……それはまた、やかましそうだな」


 十年二十年しても、この一行で賑やかに旅をしている姿が容易に想像できてしまい、フェノエレーゼは深くてながーいため息を吐くのでした。





 拾 棚機ノ章 了

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