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拾ノ捌 叶わない夢

 フェノエレーゼたちが、おもいを祓って村に戻ってきました。

 おもいに食われてしまった男の子については、取り急ぎ葬儀がいとなまれることとなりました。


 おもいを祓うという役目は果たせたので、フェノエレーゼたちは明日この地を発ちます。

 妖怪のことは解決したので、もう話を聞く必要はないのだけれど、ヒナはキヌのもとに顔を出しました。


「あら、また来たの?」


「うん。明日発つっていわれたから、お姉さんにあいさつしないとって思って」


「そう」


 キヌは口元に手を当てて短く言います。

 冷たい言い方だけれど、フェノエレーゼの横暴さに慣れているので、ヒナはたいして気にしません。


「あのね、キヌお姉さんをおそった妖怪はね、陰陽師のお兄さんとフエノさんが退治したから、もう心配しなくていいのよ。村の人たちも安心して暮らせるわ」 


「安心、ね。私以外はそうでしょうね」


 妖怪が退治されようとされなかろうと、キヌの未来は変わりません。ヒナが事実を知らないことも、キヌは面白くありませんでした。

 知らないということは、少なくともヒナの生まれ育った土地では生け贄を捧げるような風習がなかったということなのです。


 同じ大地に生まれたのに、この違いはなんだろうと。悲しくもなります。


 棚機津女の儀式なんてものがない国に生まれられたなら、純粋なままでいられたのかと。


「たなばたのぎしきが終わったら、お姉さんはまた自由に暮らせるんでしょ? どうしたい?」


「ふふっ。そうね。このくだらない村を出て、誰かと恋をしたいわ。それでその土地で結婚して子どもを産んで、愛する人とおじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒に暮らすの。子育てで意見が割れて、夫婦げんかなんてのも楽しそうよね。……そういうあなたは? 夢はある?」


「夢?」


 ヒナはこの旅の先にどうしたいか、どうなりたいか。深く考えたことはありませんでした。

 フェノエレーゼが翼を取り戻す手伝いをしたい。はじまりはその思いだけ。


「えっとね。フエノさんの呪がとけたら、わたしを抱えてお空を飛んで見せてくれるって約束したわ。そこから先のこと、考えたことないけど、でも、みんな一緒にいられたらいいな」


「そう。あなたは、私と違って自由に歩ける足があるのだから、叶えたい夢があるのなら自分で歩いていきなさい」


 もういきなさい、と背中を押され、ヒナはキヌのもとをあとにします。


「キヌお姉さん。旅を終えたら、また会いに来てもいい?」


「…………そうね」


 いい、とも、だめ、ともつかないあいまいな返事をして、キヌはまたそっぽを向いてしまいます。


 今は家族にも友だちにも会うことができないから、悲しいのかな。ヒナはそう思ったけれど、真実はそうでないとまだ知りません。


 フェノエレーゼもナギも政信も、今のヒナに教えるべきではないと判断して、なにも知らせませんでした。


 いつかまた会いたい。その約束が、決して叶わないものなのだとヒナが知るのは、まだずっと先のこと。


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