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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
玖 夜道怪ノ章
103/145

玖ノ捌 フェノエレーゼの守り方

「ふせろヒナ!」


 耳に馴染んだ声に命令されて、ヒナはとっさに地面に転がります。シンタもわけがわからないけれど、ヒナに倣って突っ伏しました。


 同時に、頭上を風が吹き荒れます。


 ごう、とまわりの木々をなぎ倒さんばかりの風をまとい、フェノエレーゼが現れました。


「フエノさん!」


 フェノエレーゼが羽扇を振ると、風の渦が起こる。夜道怪は正面から暴風をあびてはるか後方に吹き飛びました。

 太い木の幹にぶつかり、枝にひっかかり鈍い音を立てて転げ落ちます。


 竹傘は風でどこかに行ってしまい、頭と背中をしたたか打った男は、目をむいて気絶してしまいました。


「なんだ、もう終わりか。つまらん。……もう起きていいぞヒナ」


 短く舌打ちして扇をしまい、ヒナのほうに振り向きます。


「無事ですか、ヒナさん。そちらの君はシンタくんですね? おれはきみのご両親から、捜索を頼まれてきた」


 ナギもかけつけ、ヒナとシンタをぐるぐる巻きにしている縄を刀で切りました。

 両手が解放されて、ヒナはバンザイします。


「ふー。やっぱりしばられているときゅうくつね。手が動かせるって幸せ。フエノさん、ナギお兄さん、助けに来てくれてありがとう」


「ちっとも反省してないなお前。何か他に言うことがあるだろう」


 そもそも、自ら夜道怪のところに飛び込んで人質になんてならなければ、こんな危ない目に遭わなかったのです。

 それをわかっているのかいないのか。


 フェノエレーゼの眉間のシワがふかくなります。


「フェノエレーゼさん。心配だったのはわかりますが、お説教はあとにしてください。この子たちを村に連れ帰って、夜道怪を村人に引き渡さないと」


 ナギに制され、フェノエレーゼは文句のあれこれを一旦引っ込めます。


「あ、あの、えと、ありがとな。お兄さん、お姉さん。すごくかっこよかった」


「ふん。礼なんていい。さっさと自分の家に帰れ」


 笑顔を浮かべたシンタに礼を言われて、フェノエレーゼは調子が狂い、そっぽを向きました。




 村に帰り着く頃には夜が明けていて、騒ぎに気づいた村人たちが起き出していました。


 ざわざわと落ち着かなそうに騒ぐ村人たちのなかには、シンタの両親の姿も見えます。

 シンタはぞうりを投げ出して両親の元に走りました。


「お父! お母!」


「シンタ! あぁ、シンタ! 良かった、生きていたんだね!」


 シンタの両親は目が腫れるほど泣き、シンタをきつく抱きしめます。シンタも生きて両親に再会できるとは思っていなかったでしょう。両親にしがみついて、離れようとしません。


 夜道怪たちは村人たちの手で縛り上げられ、検非違使のもとに連行されることとなりました。シンタより前に何人も誘拐して奴隷商人に売りさばいていたらしく、厳しい取り調べをうけることになります。


「シンタくんがお家に帰れてよかったね。わたしもがんばったかいがあるわ!」


「半分くらい余計なことだったがな」


 フェノエレーゼに冷たくツッコミされ、ヒナは口をとがらせます。


「むぅ。そんなことないわ。だってシンタくんを見つけられたし。役に立ったでしょ?」


「阿呆。私がいつお前に、囮になれと言った。童というのは非力なものと決まっている。囮なんて不向きだ。お前は馬鹿な真似しないで、黙って荷物持ちしていればいいんだ」


 ぱん、と小気味いい音を立てて、ヒナの頭に羽扇が叩き込まれました。


「フェノエレーゼさん、言い方が……。それではヒナさんに伝わりませんよ」


 心配だから危険なことをしないでくれと言えばいいのに。ナギはあまりにも不器用なフェノエレーゼの言い回しに苦笑します。


 一応手加減はされていたので、叩かれてもそんなに痛くはありません。

 ヒナは叩かれたところをさすりながらフェノエレーゼを見上げ、フェノエレーゼの瞳が濡れていることに気づきました。


 役に立ちたいあまりに無茶をして、フェノエレーゼに悲しい思いをさせてしまったのだと子ども心にもわかって、ヒナは素直に謝りました。


「心配かけてごめんなさい。わたし、自分にできることをがんばるから。だから、わたしに見合うお手伝いがあったら、ちゃんと言ってね」


「なら、とっとと寝ろ。邪魔だからふらふらしてるな」


「はぁい」


『チチチぃ。昨日寝てないんだから体を休めろって言えばいいのに。旦那は素直じゃ……ぎゃーーっす!』


 扇で弾き飛ばされた雀が境内を転がっていきました。

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