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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
玖 夜道怪ノ章
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玖ノ漆 ヒナの脱出作戦

 夜道怪に捕まったヒナは、林の奥にある崖の側面、天然洞穴に放り込まれました。


「へへへへ。喋るなよ、ガキ。そこでおとなしくしていろ。抵抗すると斬るぞ」


 刃が欠けた刀を首元に当てられます。

 暗くてよく見えないけれど、お坊さんの衣を着ているだけで本当はただの悪い人というのだけはヒナにもわかります。



 喋るなもなにも、口をふさぐ布が頭の後ろ布を結ばれているので、声を出せるはずもなく。

 肩に乗っている雀も、下手なことをするとヒナの命に関わるので、鳴くことなくじっとしています。



 睨み合う時間だけがながれ、どれほどそうしていたのか。腕組みして倒木に座り込んだ夜道怪はトントンと人差し指で腕を叩きながら何度も林の方を見ます。


「……兄者たち遅いなあ。あの二人組に手を焼いているのか、それとも……」


 今ごろあの白い美女を捕まえてみんなでお楽しみの最中かもしれない、なんて空想して、子どもの見張りなんていう貧乏くじ引かされたようで悔しくなりました。


「ここから出るなよ。ちっと、俺も混ぜてもらいに行ってくらぁ」


 夜道怪はヒナの手首と胴を縛った縄をようく確認して、林に行ってしまいました。

 このスキにさらわれた男の子を探して逃げよう。ヒナはさるぐつわと縄をほどこうともがきます。


「むぐむー! うー、うー!」


『チチぃ! 嬢ちゃん、いま外すっさ!』


 雀がくちばしで何度も布をついばんで、ヒナのさるぐつわをゆるめます。


「ぷは! ありがとう丸ちゃん! 丸ちゃんはお利口さんね。あとこの縄はどうしようかしら……」


『チチチ。すまないっさ、さすがのあっしもこんなに固く結ばれた縄はつつけないっさ』



「う、うー!」


 洞穴の暗闇の中から、くぐもった声がしました。洞穴の湿り気ある冷たい空気に反響して、ヒナの耳に届きます。


 闇に目が慣れてくると、膝を抱えて震える男の子が見えました。ヒナとそう年が変わらないように思えます。その子もまた、手首を縛られさるぐつわをされていました。


「もしかして、あなたはシンタくん?」


 男の子ーーシンタは首を上下に動かします。弱々しい足取りで洞穴の入り口まで歩いてきて、姿が月下にあらわれます。


 雀がシンタのさるぐつわをつついて引きます。するりと布がほつれ、首元にゆるんだ布がかかりました。


 咳き込んで息を大きく吸い、シンタは涙目です。ようやく出てきた声も、何日も飲まず食わずだったのか弱くかすれていました。


「おまえも、ヤドウカイに捕まったのか?」


「うん。でも大丈夫よ。わたしと一緒に旅している人たちがね、ヤドウカイを捕まえるために動いてくれているの。だから、わたしたちは村に帰りましょ」


「でも、さっきのヤドウカイが帰ってきたら、殺されちまう。うごくなって、言われてたのに」


 恐怖で足がすくむシンタを、ヒナは叱咤します。


「ここでおとなしくしていても助からないんだから、行くしかないでしょ?」


「でも、手がこうだし、暗くて道わかんねぇし」


「足は縛られてないんだから大丈夫。歩けるでしょ。木の影に隠れながら行けばなんとかなるわ。それともこのままここにいて、どこか知らないところにつれていかれたいの?」


 ヒナに説得されて、シンタはようやく歩き出しました。林の中はうっそうと草木が茂っていて、視界はほぼ黒。

 きちんと村に近づいているのか、それともより林の奥に向かっているのかもわかりません。

 道案内するように先を飛んでいる雀だけが頼りです。


『チチチ。飯の匂いがする方に飛べば、村につけるっさ。あっしは賢いでさ』


「お、おい、おまえ、雀なんかについていって、ほんとうに帰れるのか?」


 自信満々で雀のあとを行くヒナに、シンタがあたりをみまわし声をひそめて聞きます。


「大丈夫よ。こういうとき丸ちゃんはたよりになるんだから」

 笑顔で言われて、不安がよりいっそう深まるのでした。



 しばらくいくと、茂みをゆらす音が聞こえました。自分たちの足音ではなく、狼の遠吠えまで聞こえてきて、シンタが身をすくませます。


「ひえっ! や、ヤドウカイにみつかった!? たのむ、ころさないでくれ!」


 頭を抱えてうずくまるシンタの頭に、ふわふわの毛が乗っかりました。


『きゅい! こんなにかわいいあたしをつかまえて夜道怪だなんて、失礼な子ね!』


「オーサキちゃん!! 探しに来くれたの?」


『きゅきゅ。あら無事だったのね、おチビちゃん。ケガもなかったようで何よりだわ。あんまり主様の手をわずらわせるんじゃなくてよ?』


 ツンとお澄ましで、オーサキはヒナの手に登ります。


「お、オーサキちゃん? なんだいそれ」


「この子はオーサキちゃん。おんみょうじをしているお兄さんのシキガミなの」


「……へえシキガミって何なのか知らねえけど、すげーんだな」


 害のなさそうな小さな生き物なので、シンタの警戒心が薄れました。


「ガキの声が聞こえると思ったら…………」


 真後ろから聞こえた声は、先ほどヒナを洞穴に転がした夜道怪のもの。

 二人と二匹は恐る恐る振り返ります。


「てめぇら、よくも脱走なんて小賢しいマネしてくれたな。二度と逆らえないよう、痛い目見せてやる!」


 怒りに顔を真っ赤にした夜道怪が、地を震わす声で怒鳴り、刀を振り上げました。


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