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とべない天狗とひなの旅  作者: ちはやれいめい
玖 夜道怪ノ章
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玖ノ伍 夜道怪の正体

  ヒナを追い、フェノエレーゼとナギも急ぎ外に出ました。


 ナギは横についてきたタビに命じます。


「タビ。すぐにヒナさんのところへ。身に危険が迫るようなら戦え。お前なら闇に乗じられる」


『わかった、あるじさま!』


 軽やかな足音が夜の闇に消えていきます。


 タビが去った方に足を進め、フェノエレーゼはため息を吐きます。

 タビは足先以外は真っ黒な猫。それ故に、夜道怪に気づかれずヒナを守ることができる。

 新米式神とはいえ戦える護衛をつけられたので、命の危険だけは避けられるでしょう。


 残る気がかりがあるとしたら、ひとつだけ。


「ナギ。今日あの村を一巡りしたが、私は、私たち以外の妖怪の気配を感じなかった。お前はどうだ」


「おれもです。ひんぱんにこの地に現れているなら、そこかしこに気配が残っていてもおかしくはないのに。それに妖怪のニオイがするなら、オーサキが気づかないはずがない」


『きゅいきゅい! もちろんですわ! あたしは鼻がきくんだから!』


 オーサキがナギの肩で鼻を鳴らします。


「ここに妖怪はいない。人を食らう妖怪がいたなら血の臭いも残るが、そんなもの感じない。ならば夜道怪とはなんだ? なぜ人の子や若い娘がさらわれる」


 このあたりに妖怪が存在しないのなら、答えは一つしかありません。


「夜道怪は、人間、なのでしょうね。高野聖というのは、高野山の法師を指す言葉です。高野僧の衣を着て成りすましているだけなのか、それとも本当に僧なのかまではわかりませんが」


 人が人をさらう。おそらくは売るために。運良く今までの旅路で出会わなかっただけで、今の世はそんなことも当たり前に起こるのです。


 一陣の強い風が吹き荒れ、どこからか悲鳴が聞こえてきました。

 幼い女の子の、おそらくはヒナの声が。そして何か争う物音が夜の村に響きます。




「チッ! 人間相手とは、面倒なことになった」


 フェノエレーゼが舌打ちし、走る速度をあげます。

 オーサキが声を荒らげます。


『きゅい! めんどうってなによ! あんたあの子がヤドウカイにさらわれてもいいの!?』


「そんなわけあるか。ーーナギ、私がサルタヒコに呪をかけられたことは以前話したな」


「ええ。翼を取り戻すためには善行を積まなければならないと言っていましたね。師匠いわく、悪意や憎しみに反応して広がる」


「それだ。今の私には、悪行はならぬ……人を傷つけてはならぬと、制約を課せられている。人に危害を加えると呪は体を蝕み、天狗に戻れなくなる」


 この失踪事件が妖怪によるものなら、ためらわず戦えた。

 けれど今回の失踪事件が人間によるものとなると、事情はどうあれヒナを守るために人間に危害を加えることになるのです。


「ヒナの祖父母と約束したからな。あいつを守らねばならん。だが、守るために人間と戦ったら、封印では済まされず本当に翼を失うかもしれない」


 もとは己の背にあった、今は扇となった羽を握り、フェノエレーゼが悔しそうにつぶやきます。

 助けたいのに人を傷つけることが許されない。フェノエレーゼは葛藤します。


「ならば、おれがあなたの刃となり、夜道怪と戦いましょう。貴女はヒナさんを助けることだけに集中してください。宗近さんより貰い受けたこの刀は、人を守るためにと与えられたのだから」


 ナギはずっと腰にさげていた小太刀の柄に手をかけ、覚悟を決めました。




 闇の中見えてきたのは、法師の格好をした、薄汚れた大人の男が四人。


 夜道怪は一人ではなく、徒党を組んでいたのです。

 村の北にある林に向かっています。

 そのうちの一人に、ヒナが捕まっていました。口を布でしばられ、声を出せずもがき暴れていました。


 ヒナを助けるため、タビがヒナを捕まえている男に飛びかかります。


『にゃー!! はなせ、その子をはなせよ!』


「くそ、邪魔するな野良猫風情が!!」


『あうう!!』


 (こん)で殴られてタビがひるみます。


「そこまでだ! そいつを離せ!」


 フェノエレーゼとナギが夜道怪の行く手を阻むと、上背のある男が間髪入れず薙刀を振るいました。


「やれやれ。ガキの家族が追ってきたか。手間かけさせるんじゃねえ、よ!」


 すんでのところでフェノエレーゼが飛び退き、がたいのいい太めの男に背後から捕まります。

 フェノエレーゼを助けようとしたナギの眼前を刃が通り、ナギが足を止めました。


 夜道怪たちは乱入者が現れてもものともせず、連携してフェノエレーゼとナギに攻撃を仕掛けます。


「そのガキを連れて行け! 俺らはこいつらを片付けてすぐに追うからよ!」


「おうよ! 任せた!」


 残る一人が脇にヒナを抱えて走り去りました。

 ヒナは抵抗するも、大人に力で敵うはずもなく、逃れることができません。


「ヒナ!」


 フェノエレーゼはヒナを抱えた男を追おうとするも、自分よりはるかに体格のいい巨漢に道を遮られました。


 男はフェノエレーゼの頭のてっぺんからつま先までじっくり見て、いやらしく舌なめずりします。



「へへへへへ、そこの姉ちゃん、キレイな顔してるじゃねえか。おい兄者。こいつは上玉だ。傷つけず生け捕りにすればお貴族さまに言い値で売れるんじゃねえか?」


「げはは、そいつはいいな。売る前に俺達もちっとばかし楽しませて(・・・・・)もらおうか」


 囲まれてもフェノエレーゼはひるみません。ナギと背中合わせに立ち、言います。


「ハッ。私を売るだと。汚れた地に落とされようとも、この笛之絵麗世、人間に値をつけられるほど堕ちていない! ナギ、行くぞ! 活路を開く!」


「ええ。ヒナさんも、さらわれた子も助けましょう。必ず!」




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