更新の魔王vsクズ勇者の大魔法
「遂に来たか……」
勇者ジュンは、仲間の女魔道士タオと戦士ラグと共に、遂に魔王の間まで辿り着いた。
剣を構える両手にグッと力がこもる。
そんなジュンを魔王は玉座から見下ろしニヤリと笑みを浮かべると、ザッと立ち上がった。
「フハハハハハッ! よくぞここまで来たな」
「魔王っ! 今日お前をここで倒すっ!」
「流石は勇者。ずいぶんと勇ましいが、お前に私が倒せるかな?」
余裕の笑みを浮かべる魔王に、ジュンは勇ましく、いや、かなり切羽詰まった顔で言い放つ。
「うるさいっ! やるしかないんだよっ! いくぞっ!!」
仲間達と勢いよく仕掛けるジュン。
そんなジュン達に、魔王は両手にエネルギーをギュンッと溜め、一つずつ振り放つ。
「喰らうがいい! 『デンキダイ』!! 『ガスダイ』!!」
魔王の放った二つの魔法が、水平に渦を巻きながらジュンに襲いかかる。
だが、ジュンはそれをザシュザシュッ! と、斬り裂いた。
霧散するエネルギーの中で、ジュンはドヤ顔でニヤリと笑う。
「そんなもん、効きやしねぇぜ!」
「クククッ……今のはほんの小手調べよ」
「チッ、だろうな」
「喰らうがいい! 『スイドウダイ』!!」
スイドウダイが勢いよく向かってくると、ジュンはイラッと顔をしかめた。
「確かに使いすぎたけど……『シャワーヘッドを変えた斬り』!!」
「ぬぅっ! やるではないか。だが、コイツは防げぬ。オォォォォォッ!」
魔王の黒い魔力が立ち昇ってゆく。
それと共に、魔王は胸の前で両手の平の中にバチバチバチッ! と、魔力を滾らせ創り出した。
「喰らうがいい! 勇者よっ! 『ケータイリョウキンギガマックス&テレビパソコンサブスクリョウキン』!!」
魔王から、耳にするだけで震え上がってしまう魔法が放たれジュンに襲い掛かる。
「ぐっ……! な、なんて威力だ」
剣で必死に防ぐジュン。
その顔が魔力に照らされ、苦しい顔をより悲壮な物にさせてゆく。
そんなジュンに、魔王は言い放つ。
「ハーッハッハッハッ! ケータイリョウキンは、テイキコウニュウやマトメテシハライの魔力も込められている。お前には返せぬ!」
「そ、それは……どうかな?」
「なにいっ?!」
驚き身を乗り出した魔王。
自身が繰り出した魔法が、ジュンに押され始めているからだ。
「な、なぜだ?! 貴様のどこにそのような力が?!」
「甘いな、魔王さんよ……テイキコウニュウは解約し、無駄なカイモノはしてないのさ!」
「なんだとっ?! バ、バカなっ」
魔王は信じられないという顔をして、ジュンを見据えている。
テイキコウニュウやマトメテシハライが大好きなジュンからは、考えられない行為だからだ。
「人はな……成長するんだよっ! いつも『ジュウミンゼイ』や『ショトクゼイ』『シャカイホケンリョウ』とも戦ってんだからよ! うぉぉぉぉっ!」
ジュンは思いっきり力を振り絞り剣を振り抜き、魔王の放った渾身の魔法を斬り裂いた。
全身に一気に疲労感が広がる。
「ハァッ……ハァッ……どうだ魔王! これが、勇者の力だ」
ジュンは、満身創痍の姿で魔王を見据えた。
すると、魔王はギリッと歯を食いしばり、ワナワナと体を震わせると、フッとため息を吐いた。
「よもや、この技まで破られるとは……ならば、これしかあるまい」
魔王の瞳がギラリと光り、不気味なオーラが漂ってくる。
その瞬間、ジュンの背筋にゾクッとした悪寒が走る。
───ま、まさか……!
ジュンのその顔を見て、魔王はニヤリと嗤った。
絶対的な自信を漲らせながら。
「ジュンよ、ここまでよくぞ戦った。だが、これで終わりだっ!」
「くうっ! あの技はやはり……!!」
ジュンを激しく照らす。
魔王が頭上に掲げた両手の平の上に創り出された巨大なエネルギーが。
「跡形もなく砕け散れいっ! 我が最終奥義! 『ヤチン&ニカゲツブンノコウシンリョウ』!!」
魔王の振り下ろした両手から、途轍もないエネルギー弾がゴゴゴゴゴッ……!! と、地鳴りを立ててジュンに襲いかかる。
「魔王っ! おま、世界ごと壊す気か!!」
「お前を倒せるなら本望よっ!」
「バッ……バッ、バカヤロウッ!!! ふざけんなー!!!」
ジュンが泣きそうな顔で叫びを上げると、魔王がニヤリと嗤った。
「クククッ、二年の猶予があったハズだが、お前には無理だったようだな!」
「た、大変なんだよ! 金がかかるの! 毎日! みんなも分かるだろ?!」
クソ情けない顔をしてジュンが仲間達の方へ振り向くと、仲間達は真顔で返してくる。
「月に一万五千円ずつでよかったハズだ!」
「一年前からでも三万でよかったハズよ!」
二人からのド正論が、ジュンの胸をどんな剣よりも鋭く貫く。
「わ、分かってるよ……んなの。でも……でも……」
「テメェ、何に使ったんだよ!」
「アンタはファッションとかも、興味無いじゃない!」
「そ、それは……」
ジュンの脳裏によぎる。
可愛い子と食事に行って、ついつい奢ってしまっていた救いようのない、そして、アホみたいに笑っていた日々が。
「さ、誘った方が出すのは当たり前だから……」
「だからって、出し過ぎでしょ!」
「そうだ! 俺は誘われてないぞ!」
どさくさに紛れラグの放った意味不明の発言が、ジュンの脳内をより混乱させる。
───??? あーーーーーーもう、意味分からん!! とりあえず、もーダメだ。
ジュンが心で全てを諦めかけた時、奇跡の魔法が発動した。
『ジュン、オサイフノナカヲ見なさい』
───め、女神様っ?!
ジュンは必死の形相で即確認した。
目を血走させ、まるでモンスターのように。
「こ、これは……!」
その瞬間、ジュンの体からバババッ! と、激しい闘気が立ち昇った。
まるで逆流する大滝のように。
「魔王……俺の、勝ちだ!」
「な、なんだと?!」
ジュンの突然の変わり様に驚愕し、目を見開いた魔王。
その瞳に映る。
ジュンがドヤ顔でイキってる姿が。
「バ、バカなっ! それは……!」
「そうさ。これは、伝説の魔法。選ばれし者にのみ引き寄せられる事の出来る……『タカラクジノアタリケン』だっ!!」
「あ、あ、ありえぬっ! こ、こ、こんな奴に伝説の魔法が宿るとは!」
あまりの出来事に震える魔王。
また、タオとラグも震えている。
ジュンを指差し、怒りと理不尽さをヒシヒシと感じながら。
「あ、あ、ありえないわ。こんなチャラい奴に伝説の魔法が……」
「う、嘘だろ……女にクソ甘いヤツにこんな事が……」
二人からゴミカスを見るような眼差しを向けられたジュンは、マジで泣きそうになりながら振り向く。
「あ、あのさ……俺ら仲間だよな」
すると、二人はバッと身を乗り出した。
「そんな都合良すぎるのはムカつくの!」
「俺にもくれ! クソリア充!」
二人から告げられた本心。
「なんなんだ……マジでなんなんよ。俺には仲間がおらんのかいっ!」
ジュンの怒りが燃えたぎる。
ボロボロ零す涙と共に。
「うわぁぁぁぁっ! 『シハライヨウシガレイゾウコニハッテアル斬り』!!」
「ぐはあっ!」
魔王が血反吐を吐き散らす。
それを見たジュンの勝利への期待が膨らむ。
が、しかし、魔王は倒れない。
胸に片手を当て、ハァーッ……ハァーッ……と、息を漏らしながらジュンを見据えている。
「こ、これで勝った気になるとは……甘いわっ!」
「なんだとっ!」
ボロボロの体で目を見開いたジュン。
その瞳に映る。
魔王が最後の力を振り絞り、全生命力を滾らせている姿が。
「ジュンっ! 伝説の魔法は、お前には使いこなせぬ!」
「な、なにを……!」
「これぞ我が究極の反魔法! 『ソノオカネモゼンブツカッチャウヨ』!!」
魔王の両手から放たれ向かってくる究極の反魔法が、強く照らす。
あまりの恐怖に呆然とした顔で体を反らす、ジュンの全身を。
───ダ、ダメだ。そんなの耐えられない……
ジュンの脳裏に浮かぶのだ。
せっかく当てた宝くじのお金をパカパカ使ってしまい、結局、節約&ポイント生活に戻る鮮明な未来ビジョンが。
───こ、ここまできても、冷蔵庫にある支払い用紙は失くならないのかっ……!
だがその時、仲間達のエールが耳を貫く。
「ジュン、考えちゃダメよ! 思い出して! アンタの本質を!」
「そうだジュン! その金を貸してくれ! いや、くれっ!」
「??? ラグ、お前は黙ってろ! 意味が分からん。けど、俺の本質……俺は……」
心を深く振り返った時、ジュンの瞳にカッ! と、光が宿った。
そしてバッと体勢を立て直し、剣をジャキッと構える。
最高にザワザワザワッ……! と、いう想いと共に。
「魔王っ!!」
「お、お前、一体なぜ!」
「危なかったぜ。考えちゃいけなかったんだ……」
「な、何を言っている。まさか……」
大きく目を見開いた魔王に向かい、ジュンはありったけの力を振り絞り、最強無敵の必殺技を放つ。
「うぁぁぁぁぁっ! 喰らえっ! 『サイゴニチョウジリハアワセレバイインダ斬り』っ!!」
ジュンの剣が魔王をズシャァァァッ! と、斬り裂いた。
その斬撃から放たれた大きな光が、魔王を消滅させてゆく。
「バ、バカなっ!??? 意味が分からーーーーーーーーん!!!」
魔王は消え去った。
あまりにも真っ当な断末魔と共に。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」
剣を床に差し、絶え絶えの息を吐くジュン。
「終わった……終わった……終わったぜーーーーーーーーっ!!」
勝利の雄叫びを上げたジュンに、仲間達が優しく微笑んできた。
「ジュン、やったじゃん♪」
「ありがとう。タオ」
「よし、これでパーティでパーティーだな」
「ラグ、お前は黙ってろ。しっかし、ツエー相手だったぜ」
何の反省もしていない、清々しいクズっぷりな笑顔を浮かべるジュンに、タオがギュッと抱きつく。
「ねぇーージュン、お祝いに何か買ってー♪」
「えっ?」
「お願いっ♪」
「う、う〜〜ん」
ちょっと唸るジュンに、ラグが告げてくる。
「俺のコウザを教えるから」
「??? ラグ、お前はさっきからうるせぇんだよ」
「ユウチョなら振込もしやすいぜ」
「テメェの顔でも突っ込んどけ! 後、急に語尾を変えるな!」
苛立つジュンにタオはよりギュッと胸を押し付け、瞳をキラキラさせた。
「とにかく買い物行こっ♪ ねっ、勇者様っ♪」
「いや〜〜でも、んな事してたら、また魔王が二年後に……」
煮えきらないジュンに、タオは可愛く叱りつけるように言い放つ。
「ジュンっ!」
「はいっ!」
「さっきも言ったでしょ。大切なのは本質よ」
「本質……」
「そう。魔王が復活しても、貴方なら……」
タオがジッと見つめる中、ジュンはハッと思いつき目を見開いた。
「その時に何とかすればいいんだ!」
どクズ。まるで、どこぞの漫画の地下組のような思考と、それによる救いようの無い清々しい顔。
「俺は……宵越しの金は持たねぇっ!」
右腕を天に掲げ高らかに宣言したジュン。
そこにラグがツッコミを入れる。
「いや、宵越しどころか、宵までの金も……」
そこまで言いかけたラグをタオは即座に張り倒し、一秒間に百発の拳でボコボコにすると、血まみれの手を元気にビュッと上げニコッと微笑んだ。
「ジュン最高っ! いい男だわっ♪」
「そっか。俺……騙されてないよな?」
「あったりまえじゃーーん♪」
どクズ二人と、一番瀕死の重傷を負い顔面パンパン全身ボコボコのラグは、その場から去っていく。
そして暫くし、魔王は魂となった状態でニヤリと嗤った。
「これでいい。よくやったぞタオよ。これでまた二年後に復活出来る。恐らく、より強力な魔力を使えるようになってな」
魔王の脳裏に巡る。
ジュンが今回の事でよりどクズになり、魔王の力が増す未来が。
「我の復活はもうすぐだ。クククッ……ハーッハッハッハ!!」
続……かない!
色んな意味で、これで終わりですっ!
と、いう願いを込めてーーーーーーーーーーFin
俺も、私も勇者だ!
と、いう貴方に貴女。
読んでくれて、ありがとうございまーーす!
書いてて辛かったーー www
身にしみた方は、魔王を倒す、いや、魔王を復活させない為のバイブルとして是非ともブクマを!
また、このクソ勇者と魔性の女タオ、そして、タオ流星拳でボコボコにされるラグを演じ切った皆に、★★★★★で評価を、何卒、何卒、よろしく、お願いしますーーーーーーーー!!!
m(_ _)mガツンッ! 頭かち割り土下座っ!!