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39.獣人都市フレイア

2024/3/9 あらすじやサブタイトル一部修正しています。

 ーーフレスベル王国は三十年ほど前に建国された、人間族の基準でも新しい国だ。

 もともと魔物が多く寒さも厳しい土地で、国が滅びては興ってきた。

 西にあるフランザール山脈を越えると、ザラール帝国という古くからの大国がある。

 しかし帝国にとってもフレスベルは極北東の僻地に当たり、どうしても支配しなければならない理由はない。時の皇帝の考え一つで臣従を求められることもあれば、統治が面倒になって放置されることもあった。

 政情は安定しないが、ひとびとはたくましく生きている。

 ザラールは獣人族が多く、フレスベルでも珍しくない。獣人族は魔法が不得手だが魔力そのものは高く、身体能力に秀でており、魔物と戦う際の重要な戦力でもあった。

 ワイズナー王国とザラール帝国、双方の文化を残しつつも独自の気風をも併せ持つ気鋭の国家ーーそれがフレスベル王国である。



⭐︎⭐︎⭐︎



 獣人さんがいる。

 フレスベル王国の首都フレイアへ入って、まず思ったのがそれだ。

 動物の耳やしっぽがあったり、身体の一部に毛皮を持っていたりする。体格のいい熊獣人もいれば、わたしより二回りは小柄な兎獣人や鼠獣人も歩いている。

 もちろん普通の人間もいっぱいいて、獣人さんは三割くらいだろうか。でもワイズナー王国では人間族以外は全く見かけなかったので、新鮮な気分だ。

 フレスベル王国は小さな国で、首都フレイアの他は、色々な種族の集落が点在しているだけだという。

 わたしとラスティウスがフレイアへ到着したのは夕方に近かったので、まず宿屋を探すことにする。

 最初の一軒には断られたものの、次の宿屋は一部屋ならある、というのでお願いした。

 亭主は金褐色の垂れ耳と、ふさふさのしっぽを持つ犬獣人さんだ。すんすんと鼻を動かして「まあ悪いニオイがしねえから、いいか」と言っていたので、わたし達はどうも眼鏡ならぬ嗅覚にかなったらしい。


「すまねえが、うちは食事は出してねえんだ。よそで食ってきてくれや」


「お薦めはあるか?」


 ラスティウスが尋ねると、亭主さんはわしわしと垂れ耳の上をかいた。


「んー。人間向けなら『紅剣亭』『東の歌姫亭』『風と竪琴亭』ってところか。獣人向けの店は、人間には合わねえ料理が多いから注意するんだな。種族によって食うもんがまるきり違うのさ」


 この宿屋で食事を出さないのも、色んな種族の獣人に対応した食事を作り分けるのが大変だから。此処に限らずフレイアの宿は素泊まりが大半で、食事はそれぞれに合った店へ行ってもらう形だそうだ。


「なるほど、気を付けよう」


「おうよ。ところで、そっちの嬢ちゃんは……いや、なんでもねえ。アンタら客だかんな」


 亭主さんは手を振って、わたし達を送り出した。その手は人間とよく似た形だけど、手や指の甲に金褐色の毛がびっしり生えていて爪が長い。

 獣人さんって凄い、と思いながら、宿を出た。


「うーん」


 歩く途中で自分の服の袖口に顔を近づけて、くんくんと嗅いでみる。


「どうした、リューエル?」


「エルフって匂いでばれちゃうのかなと思って」


 亭主さんの言動が、どうも気になるんだ。

 エルフって耳の形以外は、人間と同じ姿だ。わたしは世界樹の一族だから髪の色も特殊だけど。

 匂いまで考えたことなかった。


「犬獣人は特に嗅覚が鋭いというし、あり得なくはないな」


「そうだね。用心しなくちゃ。明日になったら、ヴェラドニカが言ってた隠れ家を探しに行こうか」



 わたし達はエルフのヴェラドニカに、彼女が昔住んでいた家のことを教わっていた。

 ヴェラドニカの亡くなった恋人はザラール帝国の出身で、フレイアの近くに家を建てて二人で暮らしていたらしい。

 二百年以上昔のことで、当時はフレスベルという国はなくて帝国の一部だった。でもフレイアの街そのものはあって、栄えていたという。


「あのひとが逝ってから、思い出が多すぎて住めなくなってしまってねえ。それで荷物だけ持って、こっちに引っ越してきたのさ。でも元の家もね、取り壊すのも嫌で、魔法をかけて封印してあるんだ。解呪の鍵を教えてあげるよ」


 エルフのヴェラドニカは自然の中の方が落ち着く。人間の恋人はフレイアの街で仕事がある。間を取って、どちらも住みやすいよう郊外に家を作ったそうだ。

 ヴェラドニカの大切な宝物を暴いてしまうんじゃないかと思ったけれどーー


「丈夫に造った家だけど、誰も住んでいないと傷みやすいからさ。いくら魔法をかけてあってもね。風を通すだけでもいいよ、様子を見てきてくれないかね。で、あんた達さえ嫌でなければ使っておくれ」


 彼女がそう言うので、一度は行ってみる予定だった。



 犬獣人の亭主さん、態度はぶっきらぼうだけど親切なひとだ。でも長期滞在すると、わたし達の正体を知られてしまう気がする。

 ヴェラドニカの家を使わせてもらう方がいいかもしれない。


「では明日は家を探してから、必要なものを買いに行くか」


「うん」


 予定が決まったところで、料理店が軒を連ねる区画にやってきた。

 宿屋の亭主さんが教えてくれた店も見える。


 一軒めは「紅剣亭」。肉料理が自慢の店みたい。大きな塊肉を炙り焼きにして、刃渡りの長いナイフで切り分けてくれるようだ。


 その向かいにあるのが「東の歌姫亭」で、ザラール帝国風の料理を出すらしい。

 なんで北や西じゃないのかなと思ったら逆で、帝国の中心部から見ればフレスベルは東の果てだから、こう言う名前なんだって。なるほどね。


 それから少し離れた区画に「風と竪琴亭」だね。

 人間の文字で看板に店名が書いてあって、その下に絵もある。

 長い金髪を風になびかせながら、竪琴を爪弾く女性が描かれている。

 これって……

 絵は色あせているけど、女性の目はすみれ色をしているように思える。


「このお店、入ってみていい?」


「もちろん。亭主のお薦めだから大丈夫だろう」


 わたし達は扉を押して、中へ入った。


⭐︎エルフなので紅剣亭には行きませんでしたがシュラスコやケバブみたいな店をイメージしています。おいしいですよね。

⭐︎ザラール帝国は中央アジア風の想定ですので、トルコ料理的なのが出ます。

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