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17.着飾らせると裸足で逃げ出す生きもの(後編)

 体当たりに近いわたしの突撃を、ラスティウスは風の魔法を使ってふんわり受け止めてくれた。

 わたしは彼の首に、腕を回してしがみつく。


「……その格好はどういうことだ。何があった?」


 ラスティウスの声が低くなる。


「も、申し訳ございません。これには、り、理由がーー」


 追いついた侍女さんが、息を切らしながら言う。

 その後ろから、マリノアさんが楚々としつつも早足でやってきた。


「……んまあ、これは! まあまあまあ!」


 マリノアさんは頬に手を当てて高い声を出した。


「う、美しい……一幅の絵画のようですわ……ああ尊い……!」


「……申し訳ございませんリューエル様、ラスティウス様。奥様はその……美しいものを大変深く愛する御方でして」


 侍女さんがひざまずき、深々と頭を下げる。


「リューエル様に盛装していただいたらどんなに素晴らしいかとお考えになり、ご手配なさったのでございます」


「そう言った話は聞いていないが」


「その、本当にほんの少し、お試しのつもりだったのです……ですがドレスをお召しになったリューエル様があまりに可憐で、つい私どもも我を忘れて熱が入ってしまい」


「旅の用意が全然進まないから、どうしようかと思ってラスティウスを探しに来ちゃった」


「誠に、誠に申し訳ございません!」


 真剣に謝ってくれてる侍女さん。

 でもマリノアさんは、ラスティウスとわたしを見て目をきらきらさせ、両手をもみ絞っている。


「永遠に留めておきたい光景ですわ……まさしく光の乙女と夜の精霊……ああもう私ったら、どうしてあらかじめ絵師の用意をしておかなかったのでしょう」


「ラスティウス。わたし、やっぱり人間が理解できないような気がしてきたよ……」


 こんな動きにくいひらひらのどこがいいの?


 ラスティウスは、わたしのドレスに視線を落とした。


「エルフには着飾る風習がないのか?」


「百年に一度のお祭りぐらい。前回はわたし、まだ三十歳ぐらいの子供だったから行ったことない」


「そうか。それと、靴はどうした」


「脱げちゃった。あの靴、走れないのに履く意味あるの? 森を歩くのも無理だし」


「君らしい。では、逃げ出した姫君は私が送っていこう」


 ラスティウスはわたしを抱きかかえたまま歩き出した。

 あれ、この構図は一体。

 わたしは間の抜けたことに、そのときになってようやく気付いた。

 薄物のドレス姿で靴もなくて、ずいぶん無防備な格好でラスティウスにくっついている。

 今さら恥ずかしくなった。


 ーーこんな森に入れないような格好で、誰かに運んでもらうなんて!

 世界樹の里のエルフ失格だよ。

 ドレスは敵だ、今度から絶対に断ろう。


 決意と共に首を動かすと、わたしをかかえて進むラスティウスの後ろから、マリノアさんと侍女さん達がついてきているのが見えた。

 みんな、うっとりした目つきをしてる。なんで?


「あのね、下ろしてくれる? 歩けるよ」


「私が知っている限り、人間は女性を裸足で歩かせたりしない。ドレスや踵の高い靴にしても、誰かしら男性のエスコートを受けることが前提だぞ。君のような野生のエルフは想定外だ」


「うう……何されてるか分からなくて困っちゃって」


「そこは奥方と侍女が悪いな。私も全く知らされていなかった。事前に相談があればよかったのだが……惜しいことをした」


「……ごめんね」


 またラスティウスに迷惑をかけてしまった。


「いや。これはこれで。惜しいと言えば惜しいが」


 んん?


 惜しいのか惜しくないのか、どっちなの?


 でも、それを訊く前に、元の部屋へ到着してしまった。

 ラスティウスはわたしを長椅子に下ろす。旅支度をやり直してほしい、とマリノアさん達に言い置いて部屋を出ていった。


「ああ、もったいないですわね……でも、これ以上は旦那様にも叱られるでしょうし反省しなければ。ごめんなさいね、リューエルさん」


 マリノアさんが、無念そうに溜息をした。


「私と旦那様の子供は二人とも男の子で、娘がいたらドレスを着せてあげたかったのですわ。でも、大切な客人のあなたを巻き込んではいけませんでしたわね」


 改めて見ると、鏡に映るわたしはひどいものだった。

 髪はくしゃくしゃだし、ドレスはあちこちめくれているし、靴は履いていないし。

 別に惜しくないよね。

 残念な要素しかないと思う。さっきのラスティウスの発言はおかしい。

 それともーーいつか、わたしが人間を知っていけば分かるようになるのかな。


 マリノアさんがてきぱきと指示を出し、今度こそ旅支度を整えてくれた。

 わたしはドレスを脱いで髪をまとめ直し、目立たない人間の服に着替えさせてもらう。

 やっぱり頭にはスカーフを巻いて、緑の髪と長耳を隠すことにした。

 元のエルフの服やベルトはわたしの鞄に入れて、それを普通の鞄に隠して持っていく。

 この魔法がかかった鞄は、見た目より荷物がたくさん入るから便利なんだ。


「なにか物凄いものがポンと出て参りますのね……くれぐれもお気をつけてね、リューエルさん。ラスティウスさんがいらっしゃれば大丈夫でしょうけれど」


「うん。ありがとうマリノアさん」


「また、いつでもいらしてくださいね」


 マリノアさんが優雅なお辞儀をした。

 侍女さん達も一斉に頭を下げた。


「最高の絵師を探しておきますわ」


 それはちょっと……遠慮したいかな。


 こうして、わたしはラスティウスと一緒にゴリラさんのおうちを後にした。

 フレスベルへの旅の始まりだ。


⭐︎ざんねんな やせいの エロフが あらわれた!

コマンド?

 たたかう にげる もちかえりする

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