1.プロローグは婚約破棄で
ちまちまとフリーレンの漫画読んでたら、昔考えたエルフネタを供養したくなりました(アニメは未見)。
なろう的に練り直して投稿していきます。
初の恋愛物ですがよろしくお願いします。
夜空を見るのが好きだった。
星々が遠く瞬くのを眺めて、太陽が昇るまでそこにいることもあった。
今宵のように流星群が降るときは、空いっぱいがお祭りのようだ。
きらきらと、光がこぼれ去っては消えていく。
(人間の街のお祭り、楽しかったな)
あの時は地上に星が引っ越してきたみたいに、街のあちこちに灯りがともされていて。
夢かと思うほど綺麗だった。
人間はエルフよりずっと寿命が短いけれど、色々なことを考える。
わたしは空を見上げた。
ねえ、ラスティウス。人間が言う天の国って、星の向こうにあるのかな。
あなたなら知ってる?
彼に聞こえたかは分からない。
ただ、濃い藍色をした長い髪が風に揺れて、わたしの頬へかかってくる。
そうだ、夜空を映したような、彼のこの髪も好きだった。
話しておくことがあったのに。
もう時が尽きてしまった。
ごめんね。あなたのことも、わたしのことも。もっと知りかった。
でも嬉しかった。
最期に会いに来てくれて。
何も言わなくなってしまった彼に、わたしはそっと手を伸ばす。
「これからも、ずっと一緒だよ」
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「一緒にいられなくて、すまない……リューエル」
むなしいだけの謝罪の言葉を、アルザートが口にした。
「でも僕は、君を愛することができないんだ」
ご丁寧にそんな注釈つきで。
エルフの一人、わたしの物語は、そんな運命のいたずらから始まった。
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わたしは世界樹の下で生まれた。
古くから在るエルフの里、森の中で森と共に、森のように生きるさだめを持って。
そして里長の息子であり、わたしと同じ年に生を受けたというだけで婚約者にされてしまったのが、目の前のアルザートという訳だった。
彼は悪いエルフじゃない。弓の腕は里でも一、二を争うくらい優れているし、魔法もうまい。
温厚で、善良で、優しい性格だ。
だからエルフとしては出来の悪いわたしの面倒を、よく見てくれていた。
エルフは美しい種族として知られていて、アルザートも、もちろんそう。
世界樹の若葉みたいな淡い緑の髪と、泉の水色をした目を持っている。顔立ちは繊細かつ完璧に整っていて、細身の身体つき。
本当に典型的なエルフだ。
……まあ、わたしもそうなんだけど。
わたしの髪もアルザートと同じ緑で、目は木苺を絞って染めたような薄紅色。
里のみんなも、だいたい似たような髪色で似たような顔なんだよね。
わたし達はお互いを見慣れているので何とも思わないけれど、たまに他種族が外から訪れるとびっくりするらしい。さすが世界樹のエルフの里、って。
でも。
エルフは綺麗で穏やかな種族だけど、決して清らかな存在ではない。
そこは他種族と同じなんだと思う。
「本当にすまない。僕は君という婚約者がありながら、真に愛する他の女性を見つけてしまったんだ……」
ほらね。
この日。
わたしは生まれたときから数えて、百二十年間を一緒に過ごした幼馴染からーー婚約を破棄された。